米中対立はざまの金融界 広がる不自由

2020年6月29日 06時00分
<香港危機 「国家安全法」前夜(下)>
 高層ビルが立ち並ぶ香港島中心部の金融街セントラルは、昨年からの抗議活動で主戦場になった。そのど真ん中に拠点を置く英金融大手HSBCに新たな火の粉が降り注いでいる。香港国家安全維持法の成立を目指す中国政府に対して欧米諸国が批判を強める中、HSBCホールディングス傘下の香港上海銀行トップが同法への賛意を表明した。
 「HSBCの中国事業は一夜にして中国や他の国の銀行に取ってかわられる可能性がある」。賛意表明の5日前、親中派の前行政長官、梁振英はHSBCに同法への立場表明を迫っていた。
 2008年秋のリーマン・ショックをきっかけに、事業の軸足を欧州から中国に移したHSBCだが、米中対立の間で難しい立場にあった。中国通信機器大手、ファーウェイ(華為)幹部の訴追を巡り、HSBCが米検察当局に情報提供したとされ、中国政府がにらみを利かせる。昨年、デモ隊への寄付金口座を凍結した際には自身も攻撃対象になり、支店やATMが破壊された。
 香港の外資系金融機関で働く30代女性は「香港はHSBCにとって世界で唯一もうかっている収益の柱。収益のために支持を表明したほうが良いと判断したのだろう」と解説する。HSBCで働く友人もいるが「給料をもらえるならと割り切って考えている。理想のために働いているわけではない」という。
 アジアを代表する金融センターの香港では、26万人が金融・保険業に携わり、中国本土や欧米出身者が多い。同法の受け止め方も一様ではなく、「一国二制度の破壊だ。香港市民も中国の人権活動家や(少数民族)ウイグル族と同じような圧迫を受けるだろう」(外資系金融の男性)と批判的な人ばかりではない。
 別の外資系金融で働く50代の香港人女性は同法に賛成の立場だ。昨年から続く激しいデモのため、安全を考慮して在宅勤務となるなど生活に影響も出た。「過激なデモ参加者が飲食店などを荒らし、香港経済に打撃を与えた。法律ができればそういう人が減り、また以前のようにビジネスできる」と考える。
 この女性は「香港人はまだ(中国共産党の)独裁政治に慣れていない。香港が中国の一部だという事実を受け入れなければならない」と話すが、こうした本音も普段の職場では語れない。「ストレスを背負う香港人をこれ以上傷つけたくない」からだ。率直に話ができるのは親しい同僚と2人でいるときだけだという。
 法制の是非を巡る議論は社会の亀裂を深め、自由で開放的な空気が香港から失われつつある。(敬称略、上海・白山泉)

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