「殺人犯」と書かれても「表現の自由」だと… ネットで中傷されたスマイリーキクチさんに聞く被害者救済策

2020年6月29日 06時00分
スマイリーキクチさん

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 会員制交流サイト(SNSで誹謗中傷を受けた女子プロレスラー木村花さん=享年(22)=の死を受け、ネット上の中傷対策を巡る議論が進んでいる。自民党は侮辱罪の厳罰化などを政府に提言。総務省は、新たな裁判手続きを設け、被害者からの請求で裁判所が発信者情報の開示の適否を判断する案を示した。7月に予定される政府有識者会議の中間取りまとめは、被害者救済と表現の自由とのバランスが焦点になる。対策はどうあるべきか、当事者らに聞いた。(聞き手・坂田奈央)

◆「強姦の共犯」「事件の犯人」20年以上も


 ―20年以上被害を受けている。ネット中傷対策で足りないことは。
 「被害者を受け入れる場所がない。当初、法務省の相談窓口に電話をしても警察に行っても、実害がないという理由で『様子を見ましょう』と言われ続けた。プロバイダー(接続業者)やサイト運営者に削除要請をしたが、一切応じてもらえなかった。本名と並べて『強姦の共犯』『殺人犯』と書かれても、それは表現の自由の範囲だと説明を受けた。出口の見えないトンネルのようだった」
 ―救済まで時間も費用もかかる。総務省は、発信者の情報開示をより簡単にする裁判手続き案を示した。
 「今は被害者の負担が大きすぎる。まず精神的な被害。心の傷を理解してもらえないジレンマが大きい。弁護士に相談する場合、裁判手続きを経て発信者を特定するまでに30万円ではきかない。一番スムーズでも3回裁判が必要だ。SNS)運営事業者、通信事業者にそれぞれ発信者情報の開示を請求する。特定できたら、ようやく発信者を相手にした裁判になる」
 ―どんな対策が必要か。
 「(インターネット上の住所にあたる)IPアドレスはSNS事業者がすぐに開示してもいいのでは。事業者からは、場所を提供しているだけとの説明をよく受けたが、媒体として利益を得ている以上、中傷を増長させた場所としての責任も負うべきだ。侮辱罪もぜひ厳罰化してほしい」
 ―表現の自由への影響を懸念する声もある。
 「僕は『殺人犯をテレビに出すな』と言われ、決まった仕事がなくなった。表現の自由は大事だが、誹謗中傷とは別物だ」
 ―学校や企業でネットを巡る講演を行っている。
 「目標は、加害者を減らすことで被害者を減らしていくこと。低学年から、子どもたちにネットモラル教育を行うべきだ。誹謗中傷をしたら、されたらどうなるかを伝えたい。中傷された時は親や、たくさんの人に話すこと。話すことで親身になってくれる人、救ってくれる人に必ず会える」
◇スマイリーキクチさん 本名・菊池聡。1972年生まれ。東京都出身。93年にお笑いコンビ「ナイトシフト」を結成。94年に解散し、現在は1人で活動。「爆笑オンエアバトル」(NHK)や静岡県のローカル情報番組などに出演。ネット中傷被害の経験を書いた「突然、僕は殺人犯にされた」(竹書房)を2011年に出版。各地でネットとの付き合い方をテーマに講演している。

◆司法手続きの負担減を 自民党の対策PT事務局次長で「表現の自由を守る会」代表の山田太郎参院議員


 表現の自由が失われない対策が重要だ。どんな言葉がアウトか決めつけない。結果的に相手を傷つけたら責任を取る可能性があることでバランスをとる。権利侵害かどうかの判断は司法に委ねる。司法手続きの金銭や時間の負担を減らす必要がある。プロバイダーに大きな責務を課すと、自主規制も含め表現の自由が奪われる恐れがある。どこまで責務を課すか、シビアな議論が必要だ。

◆凍結、削除を速やかに 宮下紘・中央大総合政策学部准教授(情報法)


 一番に着手すべきはSNS事業者による救済策の充実だ。被害者は何より早く拡散を止めたい。攻撃的な書き込みを繰り返す人のアカウントを凍結し、速やかに削除できる体制を整えるべきだ。発信者情報の開示要件緩和は慎重であるべきだ。書き込み者が次々と特定されれば、政権への建設的な批判を思いとどまる可能性もあり、言論全体の萎縮を招きかねない。

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