<ひと物語>届けたい 地元の野菜 見沼田んぼで「こばと農園」経営・田島友里子さん

2020年6月29日 07時06分

収穫したばかりの野菜を持つ田島さん=いずれもさいたま市内で

 「この辺は土がいいの?」「重いんですよ。時々水没もするけど、それが養分になってまた土が肥えて」
 さいたま市緑区の見沼田んぼで「こばと農園」を営む田島友里子さん(34)。野菜を買いに来た市内の男性に説明しながら、ズッキーニやジャガイモ「アンデスレッド」、ニンジンを次々に収穫していく。ホームページで農園を知り常連になったこの男性は「無農薬がいいよね、本当においしい」と笑顔を見せた。
 見沼田んぼの豊かな自然にすっかりとけ込む田島さんだが、美術系の大学院を出ており、農業は、幼いころ実家で祖父の米作りを手伝った程度の経験しかない素人だった。仕事で社会に貢献したいと悩み続け、たどり着いたのが「食べ物を作って売ることこそ、働く原点」という考え。そこからの行動は素早い。縁もゆかりもない北海道に魅力を感じて飛び込み、新得町の研修制度を利用して三年間、さまざまな農業の在り方を学んだ。
 駆り出された町内の祭で、林野庁から町に出向していた夫の英樹さん(31)と知り合う。もともと三十歳で独立するつもりだったこともあり、結婚と出産を機に夫の実家があるさいたま市に移ることを決めた。
 市内で就農するには見沼田んぼがよいと見定め、県の農業大学校や担い手育成塾などに通って知り合った人や地元関係者らにアピール。認定農業者の資格を得るのと並行して土地を借りるめどを付け、二〇一六年に農園を立ち上げた。

常連の男性に販売した「こばと農園」の野菜

 田島さんの農法は自然栽培で、農薬も肥料も使わない。露地栽培のため天候の影響を受けやすく、特に最初の年は育たないものの方が多く失敗続きだった。精神的な落ち込みは「自然相手なんだから仕方ない」と開き直って乗り越え、リスク分散のため多品種を育てるなどのこつをつかんだ。
 イベント出店、飲食店への飛び込み営業などさまざまな販売法を試行。有機野菜に興味のある層の支持を徐々に広げ、現在は直売所での販売や、メールや電話での注文に応じた戸別宅配などが主だ。
 畑は繁忙期を除き一人きりの作業。夫の英樹さんが京都に単身赴任中のため、芽依ちゃん(5つ)と明育(あきなり)くん(1つ)の育児もワンオペで奮闘中だ。「『ママはいっつも畑に行って!』と怒られますが、忙しいのはいい時期なので」と意に介さない。現在の収支は「赤字は出ないがもうかってもいない」程度。畑は就農当初の約四・五倍、一・二五ヘクタールになったが、さらに広げ法人化するのが目標だ。
 「人口が多い消費地のさいたま市は、畑に人を呼ぶことも簡単。市内の人のために、できるだけ地産地消できる農業を続けたい。市で一番を目指し、雇用を生み出して若い人を農業に連れてきたい」と夢は広がる。 (前田朋子)
<たじま・ゆりこ> 1986年、三重県四日市生まれ。愛知教育大大学院(美術教育専攻)で水彩画を学び、いったんは美術教諭の職に就くが退職。北海道での研修を経て結婚、出産。2016年に県農業大学校(有機専攻)を卒業し、「こばと農園」を設立。農園の野菜はさいたま市内の直売所「わくわく広場」イオンモール与野店やステラタウン大宮店などで販売中。その他の販売場所や市内のみで行う戸別宅配は農園のHPとメール=kobatonouen@gmail.com=へ。

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