<記者のおすすめ>手元にいつもアート 市販の展覧会図録

2020年6月29日 07時14分
 コロナ禍で美術館が軒並み閉館した今春、アート作品に触れられないと嘆いた人は多いはず。そんなとき、画集とともに助けになるのが過去の展覧会図録です。かつては会場だけで売られるのが一般的でしたが、近年は会期後も書店で扱われているものがあります。市販されているお薦めの展覧会図録を紹介します。 (文化部・矢島智子)

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 三年前、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開かれた日本初の回顧展が若者に支持され、今年再び展覧会があった米国の写真家ソール・ライター(一九二三〜二〇一三年)。最初の図録<1>『ソール・ライターのすべて』(青幻舎・二七五〇円)は現在十五刷、四万四千部という人気です。ニューヨークでファッションカメラマンとして活躍し、晩年、ドイツで出版された写真集で再評価された彼は「私たちが見るものすべてが写真になる」と、日常のささいな光景に美を見いだしました。色彩感覚に優れたカラー写真は絵画と見まがうほど。ものを見る目を変えるヒントが詰まった一冊です。

<2>『背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和』で、図案の仕事を紹介したページ

 <2>『背く画家 津田青楓(せいふう)とあゆむ明治・大正・昭和』(芸艸(うんそう)堂・二九七〇円)は今春、練馬区立美術館で生誕百四十年を記念して開かれた初の回顧展の図録です。夏目漱石の本の装丁で知られる青楓(一八八〇〜一九七八年)は、二十代で日露戦争に従軍し、二〇三高地など激戦地を転戦。五十代になった昭和初期にはプロレタリア運動への関わりで摘発され、油彩の筆を折っています。図録には、獄死した小林多喜二を描いた油彩の代表作「犠牲者」をはじめ図案、装丁、日本画、水墨画、書など多方面の才能が網羅されただけに、時代の巡り合わせの過酷さを痛感します。

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 <3>『円山応挙(まるやまおうきょ)から近代京都画壇へ』(求龍堂・二六九五円)は昨年、東京と京都で開催された円山・四条派の展覧会図録。帯に「永久保存版」の文字が躍ります。写生に装飾性を加えた画風で十八世紀の京都で愛された応挙。応挙と呉春(ごしゅん)を祖とする同派の全貌を見渡せる本は画期的でした。ぜいたくな大判で、巻頭では一門が襖絵(ふすまえ)を手掛け「応挙寺」と呼ばれる兵庫県香美町の大乗寺を写真で紹介。美人画の巨匠・上村松園(うえむらしょうえん)まで連なる作品群を通覧すると、京都人の心を捉えた絵の品格が伝わります。

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 神奈川県平塚市美術館などで二〇一〇年にあった大回顧展の<4>『長谷川潾二郎(りんじろう)画文集 静かな奇譚(きたん)』(求龍堂・三三〇〇円)は、不思議な魅力に満ちた一冊です。画壇に属さず、独自の写実表現を追求した洋画家・潾二郎(一九〇四〜八八年)は静物や風景を平明、温厚に描きましたが、作家で画商の洲之内徹(すのうちとおる)が「この世のものとは思われない趣さえある」と言ったほど非日常的な幻想性を帯びています。納得するまで観察しないと描かなかったとされ、カバーの作品「猫」には片方のひげがありません。猫の思い出をつづった随想も収録されています。

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 <5>『高島野十郎(やじゅうろう) 光と闇、魂の軌跡』(東京美術・二五四七円)は二〇一六年、目黒区美術館などであった没後四十年展の図録。東京帝国大農学部水産学科を首席で卒業という異色の経歴を持つ野十郎(一八九〇〜一九七五年)も孤高の洋画家でした。蝋燭(ろうそく)の灯や月を執拗(しつよう)に描いたことで知られ、その作品は写実を超えて妖気さえ漂います。画業全般の約百五十点を収録した一冊は見応え十分です。

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