自粛生活の彩り、手土産にも 幸せ味わう高級食パン

2020年6月29日 07時26分

焼きたての食パンを次々袋詰めする「セントル ザ・ベーカリー銀座」の店員=東京都中央区で

 たかが食パン、されど食パン−。甘い菓子パンや手の込んだ調理パンに比べると「地味」だった食パンが存在感を増し、専門店の紹介サイトでは全国の開店情報が続々と更新されている。なぜ人々を魅了するのか? 普通の食パンの倍以上の値段を出して買う人の心理とは?
 銀座一丁目駅近くの高架下に、平日なのに一定の間隔を空けて並ぶ列があった。ガラス張りの「セントル ザ・ベーカリー銀座」(中央区)の店内をのぞき込むと、店員が焼きたての食パンを次々と紙袋に詰めていた。渋谷と丸の内でパンやお菓子を販売する「ヴィロン」が、二〇一三年に開店させた食パン専門店だ。
 「主にうどんや麺に使われていた国産小麦の需要を上げ、パンの価値を底上げしたい」と統括グランシェフ奈良晴之さん(43)。使う小麦は北海道美瑛(びえい)町の農家の「ゆめちから」。ふっくらさせるタンパク質の量が多く、生だと肌に吸い付きそうなほどもっちり、焼けば外側がさっくりする。
 一般に食パンは一斤百円台だが、同店の全三種類の食パンは二斤で税込み八百六十四〜九百七十二円。奈良さんは「材料にこだわった食パンがブームになるとは」と目を細める。開店当初はスライスせず長いまま売るとクレームの嵐だったが、切った瞬間から水分が抜け乾燥してしまうと、焼きたてを袋に詰めるスタイルを貫いた。
 千葉県習志野市から月に一、二回訪れる六十代女性は「奥深くて嫌みのない、気持ち良い味」と話す。「土産に買うと喜ばれる」とも。今や食パンは和菓子やケーキと肩を並べる「贈答品」に昇格したようだ。
 六月上旬、神奈川県小田原市では高級食パン専門店「迷わずゾッコン」の小田原店が開店し、百五十人が並んだ。先頭は二時間前に来た同市在住の親子。「迷わずくちづけ(二斤・税込み九百円)」を買った小学三年の娘は「早く食べたい」と待ちきれない様子だった。

「迷わずゾッコン」が開店して一番に購入する小学生=神奈川県小田原市で

 同店は水戸市、横浜市緑区に続く三番目の店舗で、いずれも今年開店した。ブランドマネージャー宮谷努さん(45)は「パンとケーキの中間」と味を説明。高橋欣也社長も「乳酸菌でふわふわもちもち。食べれば“一口”瞭然」と食パンのような白い歯をチラリ。専門店ならではのメリットも。路面店の店内で食パンを焼き、その一部を十分の一の費用で出店できるデパ地下や駅構内で販売すれば経営効率が良いという。
 食パン専門店の経営希望者向けセミナーを開く船井総合研究所(千代田区)によると、食パンの転換期は今から十一年前。一世帯あたりのパン消費額が米を逆転した。一三年にはセブン&アイ・ホールディングスが「金の食パン(税込み二百九十七円)」を発売、大阪発祥で商標登録『高級「生」食パン』を持つ「乃が美」などの専門店が現れ、高級な食パンが続々と世に出た。従来の食パンにはなかった贈り物需要に加え、最近の自粛生活で家庭での消費も増えているという。
 「全国食パン専門店紹介サイト」を開設するHiroshiさんは「一年前から新店舗情報の更新が急激に多くなった」という。そして「専門店の食パンは予約や並んで買うことで裕福感を感じ、食べると幸福感を抱かせる存在になっている」と分析。彼のお勧めは鳥取県米子市の「『高級』美食パン専門店GaLa」の「ガラブラン プレーン (二斤・税込み千五十八円)」。ヘルシーな食材を使い、低糖質。取り寄せて食べてみると、焼くともちもち感が際立った。

取り寄せできる「GaLa」の食パン

 「朝食の定番」でありながら、ぜいたくなひとときを与えてくれる存在に上り詰めた「食パン」から目が離せない。
 文と写真・高橋可鈴
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