「請求権、既に消滅」 形式論で被害者の訴え一蹴 強制不妊訴訟

2020年7月1日 05時50分

 旧優生保護法下で強制不妊手術を受け、訴訟の原告となった東京都内の男性(77)の前に立ちはだかったのは、不法行為から20年で損害賠償請求権が消える「除斥期間」の壁だった。被害者が抱える事情を顧みず、法的な形式論で訴えを一蹴した東京地裁判決には、識者からは批判の声が上がった。(小野沢健太)
 「原告の損害賠償請求権は、既に消滅している」
 伊藤正晴裁判長が請求を棄却する理由として真っ先に挙げたのが、除斥期間だった。

◆訴訟で国が請求棄却を求める根拠に

 除斥期間とは、権利関係を安定的に確定させるための民法の規定で、被害者の事情は考慮されずに画一的に20年と定められている。戦後補償などの国家賠償訴訟で、国が請求棄却を求める根拠としてきた。
 強制不妊手術を巡る2件目の司法判断となった今回の判決。仙台地裁が昨年五月に判決を言い渡した訴訟で原告側は、国会が被害回復を図るための立法措置を怠ったと主に訴えたが、今回の訴訟の原告側は「損害は今も続いている」(弁護団の関哉直人弁護士)という点を最も強調した。
 関哉弁護士は「被害者は永久に子ができない人生を強いられている。不法行為を手術時だけに限定するのは許されない」と話す。

◆最高裁が例外を求めたのは2件だけ

 しかし、これまでに最高裁が除斥期間の例外を認めたのはわずか2件。殺人事件の遺族が26年間、事件発生すら知らなかったケースと、予防接種の後遺症で寝たきりになり、22年間訴訟を起こせなかったケースだけだ。
 判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで会見した全国優生保護法被害弁護団の新里宏二共同代表は「被害者は国から『不要な人』とラベリングされていたんです。そんな状況下で被害を言い出せるわけがない。なぜ提訴できなかったのか、被害や加害の実態を全く見ていない判決だ」と批判した。
 旧優生保護法から障害者差別にあたる条文を削除し、母体保護法に改正されたのは20年以上前の1996年。最後の手術は96年で、除斥期間が一律に適用されるならば賠償を認められる人はいなくなる。
 旧法に詳しい東京大大学院の市野川容孝教授(医療社会学)は「本人には分からせない形で手術を強制していた旧法の特殊性を踏まえ、除斥期間の対象から外すべきだ」と強調する。

◆判決の論法は人権への無理解の表れ

 敬和学園大の藤野豊教授(近現代史)は「国が旧法によって『障害者は子どもを生んではいけない』という差別意識を社会に根づかせた。除斥期間内に提訴しなかったから国の責任は認めないという判決の論法は、人権問題への無理解の表れだ」と非難する。
 その上で「国が賠償に消極的なのは、国による人権侵害がなぜまかり通ったのかが十分に検証されていないからだ。国が自らの過ちにきちんと向き合わなければ、被害者に対する姿勢も変わらないだろう」と指摘した。

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