荒川の氾濫「今来たら」…水害「広域避難計画」迷走 東京、コロナ対策急務

2020年7月2日 06時00分

周辺より低くなっている京成本線荒川橋梁(きょうりょう)の堤防に、水防訓練を兼ね土のうを設置する消防隊員や区の職員ら=東京都葛飾区で


 今年も水害が心配な季節がやってきた。低い土地が広がる東京都の東部エリアでは、250万人を対象にした大掛かりな「広域避難」が江戸川など地元の5区から打ち出されているが、昨年10月の台風19号で不安材料が顕在化。計画の見直しを迫られていたところに新型コロナウイルス対策も加わり、住民からは「今水害が来たらどうすれば」と戸惑いの声が上がる。(加藤健太)
 連日の雨で水かさが増した荒川の堤防で1日、水害に備え葛飾区職員や消防署員らが土のうを積んだ。線路が横切る部分だけ堤防が3・7メートル低く、住民が最も決壊を恐れている地点だ。
 「いつ荒川が氾濫してもおかしくなかった」。町会長の岡田明夫さん(84)が昨秋の台風19号を振り返る。堤防から300メートル離れた自宅は決壊すると1階が水没しかねない。最悪のケースの想定浸水は深さ3~5メートル。避難所に身を寄せる必要を感じながらも、コロナも怖い。「段ボールの間仕切りで感染は防げるのだろうか。複合災害にどう対応すれば」。悩みは尽きない。
 東部エリアはひとたび浸水すると水が引きにくい「海抜ゼロメートル地帯」が広がる。避難をせずに自宅の上階にとどまると長い間、孤立してしまう。そこで打ち出されたのが、自治体の境を越えて遠くに逃げる「広域避難」だった。「ここにいてはダメです」と書かれた刺激的なハザードマップも話題になった。
 ただ足立、江戸川、葛飾、江東、墨田の5区にまたがる約2500000人を対象にした前代未聞の計画は、台風19号の襲来で再考を余儀なくされている。広域避難先に想定していた埼玉、千葉の両県も被害があり、避難時の足と考えていた鉄道も計画運休でストップしたからだ。
 住民からは「机上の空論だ」と非難の声が上がり、5区の区長は昨年末に出した共同コメントで「広域避難は多くの課題がある」と計画の甘さを認めた。
 広域避難の計画が迷走する中、水平方向ではなく高い場所へ逃げる「垂直避難」を前提にした備えが住民の間で進む。葛飾区では町会などが自主的にゴムボートを用意し、「水が引かない事態が起きても、取り残された人を助け出したり、物資を届けたりできるように」と訓練を重ねている。
 一方、都は垂直避難ができそうな施設をデータベース化して、5月末から各区に情報提供を始めた。2100カ所の区立施設や商業施設の駐車場などを候補としているが、コロナ禍で密集を避ける必要が生じ、収容可能な人数は当初の見込みより少なくなっている。
 都総合防災部の須田久喜担当課長は「感染防止のため、親戚や知人宅のような避難所以外への避難を呼び掛けていきたい。広域避難も引き続き促していく」と話す。ある区の防災担当者は「広域避難先の確保は自治体だけでは限界がある。都や国が広い視点で関わってほしい」と注文を付けた。

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