創文社の全書籍が絶版免れる 講談社がオンデマンド形式で出版へ

2020年7月2日 13時55分

創文社の発起人の一人だった西谷啓治氏

 学術書専門の老舗出版社で6月30日に解散した「創文社」(東京都千代田区)が世に送り出してきた全書籍について、大手出版社の講談社(文京区)が刊行を引き継ぐことが決まった。神学者トマス・アクィナスの「神学大全」(全45巻)などの良書が絶版を免れる。一つの出版社の書籍を丸ごと別の出版社が引き継ぐのは業界では異例。良書を残したい、という両社の思いが結実した。(小佐野慧太)
 講談社は創文社の全書籍1500点以上のうち、権利者から同意を得られた書籍について、読者から注文があれば、そのつど製本するプリント・オンデマンド(POD)出版や、電子書籍の形で届ける。「創文社POD叢書そうしょ(仮称)」シリーズとして刊行する。
 オンデマンド出版のノウハウがある「講談社学術文庫」の編集部が中心となり、権利者に協力を依頼している。刊行の開始時期は未定。販売価格は、これまでと同程度に設定する。
 創文社は一九五一年に創業し、人文・社会科学系の学術書の専門出版社として知られる。2016年、出版不況や学術論文の電子化などで売り上げが落ち込み、「回復の見込みがない」として解散を発表した。東京大学出版会が引き継ぐ「ハイデッガー全集」などを除き、多くの本が絶版の危機にさらされていた。
 講談社の担当者は「かけがえのない財産が入手できない状態のままになってしまうのは極めて甚大な文化的損失。出版文化を担う者として座視することはできなかった」と説明する。
 創文社の久保井正顕まさあき社長(73)はオンデマンド出版などの形で書籍が残ることに「学術書の出版が苦境に立たされる中、後世に本を残していくための一つのモデルケースになるのでは」と語る。創業者の故久保井理津男氏は「良書は一人歩きする」という言葉を残した。久保井社長は「講談社さんからの申し出を受け、まさにその言葉の正しさを実感している」と喜んだ。

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