三味線「東京和楽器」廃業へ 「力になりたい」存続願う声、続々

2020年7月3日 07時50分
 創業百三十五年の三味線の最大手メーカー、東京和楽器(東京都八王子市)=写真=が八月に廃業することになり、その衝撃は邦楽界のみならず、SNSでも広がっている。本紙報道を受け、惜しむだけでなく「支援できる方法はないか」「廃業阻止はできないか」といった投稿が相次ぎ、同社には「協力できることがあれば」との救済の提案も寄せられているという。 (山岸利行)

東京和楽器の大瀧勝弘代表

 「あの東京和楽器が…」。三味線の愛好家なら誰もが驚く老舗廃業のニュース。邦楽界に及ぼす影響は計り知れない。
 東京・歌舞伎座近くの三味線専門店「三雅(みつまさ)」の伊藤元英(もとふさ)さん(43)は「東京和楽器は業界では知らない人はいない。あそこがなくなるとは思っていなかった。すごいショック」と驚きを隠さないが、「昔は趣味で三味線や琴(箏)をやる人がいたが、今では少なくなっている」と厳しい現状認識も示す。
 専門誌「邦楽ジャーナル」の田中隆文編集長(65)も「以前はデパートに和楽器売り場があったが、今はなくなった。専門店に行かないと三味線の皮は張り替えてもらえないが、今は専門店が少なくなって不便になり愛好者も減り、そして需要も減るという負のスパイラルになっている」と語る。
 そんな現状にコロナ禍も加わって、東京和楽器の大瀧勝弘代表(80)が八月十五日をもっての廃業を決意。三味線市場の五割とも六割ともいわれる同社が消えてしまうと、どうなってしまうのか。

<熟練>三味線の製作現場での緻密な加工作業=いずれも東京都八王子市で

 伝統芸能事情に詳しい東京文化財研究所の前原恵美・無形文化財研究室長は「新型コロナウイルス禍で中止、延期された公演が再開され、一斉に三味線を新調、修理しようと需要が集中しても、即座に対応するのが難しくなるかもしれない」と懸念を示す。「演奏家、ホールなどの施設、楽器の製作者・販売者が揃って活動再開の準備ができていないと、公演を軌道に乗せるのは難しいのではないか」と危惧し、「歌舞伎や文楽、長唄・常磐津節・義太夫節などの音楽にも影響が及ぶ可能性がある」と指摘した。
 また、同社が所有する百台以上のオリジナルの機械は三味線を熟知する社員による設計、製作で、前原室長は「同種類の三味線でも、要望に応じて機械部品の着脱や調整、経験に基づく機械操作で対応している」と評価。廃業となれば、こうした貴重な機械も使われなくなってしまう。
 廃業の日が迫っているが、同社には「伝統芸能の灯を消してはならない」「三味線を守りたい」と、東京や大阪の会社経営者や個人、団体などから連絡が入り、「力になりたい」との申し出も寄せられているという。
 大瀧代表の妻で同社代表取締役の芙美さん(76)は「三味線の前途は決して明るくありませんが、伝統芸能に理解のある方がいらっしゃれば」と存続を願い、再建に望みを託す。

東京和楽器で製造された三味線のパーツ

 厳しい三味線業界だが、「自粛生活で三味線をやりたいという人も出てきた」と話す関係者もいる。東京和楽器の三味線復活の追い風となるか。 
<三味線> 十六世紀末、琉球経由で日本にもたらされた中国の三弦が起源とされる。四角い木製の胴に猫や犬の皮を張り、棹に張った三本の弦を銀杏(いちょう)形の撥(ばち)で弾いて演奏する。近年、皮はカンガルー、ヤギ、人工皮なども使われている。弦は絹やナイロン製など。棹の太さによって細棹、中棹、太棹の三種類に大別される。細棹は長唄など、中棹は常磐津、清元など、太棹は義太夫、津軽三味線などに用いられる。

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