<視点>コロナ禍で生活保護を正しく活用するために 上坂修子

2020年7月3日 11時15分

上坂修子編集委員

 「一部の政党が生活保護に対して攻撃的な言辞げんじろうしているという趣旨のお話をされたんですが、もちろんそれは自民党ではないということは確認しておきたいと思いますが…」(安倍晋三首相)
 「自民党の議員何人もがバッシングやってるんですよ」(共産党の田村智子参院議員)
 耳を疑った。6月中旬の参院決算委員会での首相答弁だ。とぼけているのか。わずか8年前のことを忘れたのか。
 私はあの騒動を鮮明に覚えている。2012年、人気お笑い芸人の母親が生活保護を受けており「売れっ子なのに母親の扶養義務を果たしていない」と週刊誌が報じた。自民党の片山さつき、世耕弘成の両参院議員が「不正受給の疑い」などと批判し騒動が拡大。同芸人は謝罪、保護費の一部返納に追い込まれた。
 だが、このお笑い芸人のケースは違法ではなかった。生活保護法は「(親族による)扶養は保護に優先する」とするが、扶養能力があろうとも扶養を強制してはいない。
 「生活保護バッシング」を背景に、自民党は同年12月の衆院選で生活保護の支給水準原則1割カットを公約し、大勝。政権に復帰した。
 翌月には戦後最大とも言われる生活保護基準の引き下げが決まった。保護のうち食費などの生活費に充てる生活扶助費を最大10%カットするという、自民公約に沿ったものだった。私は当時、厚生労働省担当として取材をしていたが、その決定過程が不透明で同省から十分な説明も得られず、憤りを覚えていた。
 バッシングの後遺症は今も残る。全国の弁護士らが6月初めに実施した電話相談会には、コロナ禍で経済的に困窮する多くの人から相談が寄せられた。中には「生活保護はいや」「母親が拒否感を持っている」など生活保護の利用に抵抗を示す声があった。
 6月25日には、全国約1000人の受給者が国などに生活保護の引き下げ取り消しを求めた集団訴訟の初判決が名古屋地裁であり、同地裁は引き下げを決めた厚労相の判断に「過誤、欠落」はなかったとし、原告の請求を棄却した。
 判決は引き下げが「自民党の政策の影響を受けた可能性を否定することはできない」と言及するが、生活保護基準の見直しは客観的な統計や専門的知見に基づいて決められるべきものだ。原告側は「受給者の現状を無視した判決」として控訴する方針。
 日本国憲法は25条で「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とうたう。日本でも生活保護の利用は権利なのだ。ためらいなく使える制度にしたい。
 コロナ禍で「最後の安全網」を十分に活用するために、政府はさらなる支給要件の緩和や審査の簡略化に取り組むとともに、忌避感を払拭ふっしょくするために積極的な利用を呼びかけるべきだ。 

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