朝鮮半島と日本の未来 姜尚中(カンサンジュン)著

2020年7月5日 07時00分

◆対立の克服 問い掛ける
[評]和田春樹(東京大名誉教授)

 姜尚中氏は朝鮮戦争のさ中に生まれた。今年七十歳の氏は、ミリオンセラーの著作をもつ大作家だが、世に出た著作は十七年前の『日朝関係の克服』であった。小泉訪朝によってはじまった日朝国交正常化交渉が途絶する中で交渉の再開こそ「北東アジア」平和への道であると断固として主張した著作であった。「在日韓国・朝鮮人」として、朝鮮戦争が終わる日を願う姿勢で書かれていた。
 いま老年の戸口に立つ姜氏は自分が朝鮮の統一を見届けられないだろうという諦念をもちながらも、ふたたび日朝・日韓関係の考察に立ち返り、「朝鮮半島と日本の未来」という日本に生きる者にとっての現下の最重要問題を論じた本を出した。
 さすがに達意の文章で、複雑な問題が実にわかりやすく、説明されている。日韓関係はいまや極度に悪化したと言われているが、姜氏は日韓どちらにもかたよらないで「ニュートラルな立場」で論じようとしたとあるインタビューで語っている。日韓基本条約のことも、慰安婦問題のゆきづまりも、徴用工問題も、バランスよく論じ、問題点を指摘している。結論として、金大中元大統領の「太陽政策」こそ「未来」のための選択肢だと主張するのも、読む者がひとしく受け入れるものであろう。
 新型コロナ・ウイルス禍の中では、対立をのりこえ、相手を包み込む「太陽政策」がさらに光を増している。その方向に一歩でも近づくためには、現在の危機をぬけだす突破口をさがさなければならない。十七年前の姜氏は日朝国交正常化交渉の再開に突破口をみていた。
 いまはどうなるのだろう。自民党総裁選で安倍氏と争った石破茂氏は自分が当選したら、東京と平壌に連絡事務所を開いて、交渉を始めると述べた。私は無条件国交樹立、大使館開設、諸懸案交渉の即時開始を提案してきた。
 姜氏は本書で日本が音頭をとって米朝二国間交渉に六者協議を組み合わせるのがよいとしている。ここは読者が本を閉じた後、自分で考えるよう求められているのだ。
(集英社新書・946円)
1950年生まれ。政治学者、東京大名誉教授。著書『悩む力』など多数。

◆もう1冊

和田春樹、孫崎享(うける)、小森陽一共著『朝鮮戦争70年』(かもがわ出版)

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