ニューズピックス、スマートニュース~コロナ禍で躍進の次世代メディア デジタルメディアの現在地(2)

2020年7月7日 20時00分
新型コロナウイルスの世界的な感染の広がりに伴い、経済や暮らしがどのような変化にさらされるのかとの不安が強まり、人びとのニュースへの関心が急激に高まった。そうした時機を捉え、存在感を増すネットメディアがある。自前の編集部でつくる独自記事を売りにする「ニューズピックス」と、テクノロジーの力で国境を越えてニュース配信サービスを展開する「スマートニュース」だ。時代の先端を走るメディアの姿を追った。(名古屋経済部・西山輝一)

◆新型コロナ 独自記事を連発

経済メディアの「新しい王道」を目指す―。新聞や雑誌といった既存メディアの多くが販売部数の減少に苦しむ中、経済を専門とする新興メディアのニューズピックスは、そんな目標を掲げ、新たな主役になろうと勢いに乗っている。
スマートフォン向けのアプリ版と、パソコン向けのウェブ版のサービスを展開し、ビジネスやテクノロジーなどに関する情報を届ける。編集部を設けて独自記事を配信するようになって6年ほどだが、月額1500円の「プレミアム会員」を着実に増やし、個人と法人を合わせた有料会員は約15万人に達した。新型コロナの拡大に伴い、3月下旬からは新規会員の獲得ペースが3倍に伸びたという。
「読者が一番読みたいときに、一番読みたいテーマの特集を届けている。シンプルにそれだけです」

新型コロナウイルス関連の独自記事に力を入れるニューズピックス

好調の理由を、池田光史編集長(37)はそう説明する。通常、1つのテーマについて連載する特集は1カ月ほどかけて取材する。3月初めの段階で各記者が準備していた特集が多数あったが、新型コロナの広がりを受け「いったんすべてキャンセルし、緊急特集として新型コロナ関連の特集を作り直した」と振り返る。
世界各国の感染者数や政府の対応をまとめ、グラフやイラストなどで図解した「徹底解説 新型コロナ」(3月2日から全5回連載)をはじめ、ワクチン開発で先行する米国のバイオテクノロジー企業モデルナの創業者へのインタビュー(4月20日配信)などの記事を連発。ニューヨークやサンフランシスコに駐在する自社の記者が都市封鎖(ロックダウン)のさなかの街の様子を伝えるドキュメンタリー動画も配信した。
「ビジネスパーソンが知りたいグローバルな最重要トピックを、国境を越えて追い掛ける。新型コロナの報道ではその意味で、国内メディアの先頭集団で走っている自負があります」

◆「伝統メディア」から転身

ニューズピックスは、投資銀行出身の梅田優祐氏(39)らが2008年に創業し、16年に東京証券取引所マザーズに上場したユーザベース(東京)の子会社だ。ユーザベースは、法人向けに企業情報や業界分析といったデータを提供するビジネスを手掛けており、13年から経済ニュース事業としてニューズピックスのサービスを始めた。
当初はオリジナルの記事はなく、通信社や雑誌などの外部メディアから提供を受けたニュースをまとめ、アプリ利用者向けに配信するサービスから始めた。利用者がニュースに実名でコメントを投稿できる機能を設け、「プロピッカー」と呼ばれる金融や自動車、科学などの各分野の専門家が投稿するコメントが人気を集めた。
14年から編集部で取材し、独自記事を届ける有料購読プランを始めた。ニューズピックス本社は東京・六本木にあり、従業員は184人(19年末時点)。編集部では記者とデザイナーが議論をしながら、文章とCGを組み合わせてわかりやすく伝える方法を考える。「編集部の人数は正確には申し上げられないが、非常に少ない。少人数だからこそ機動的に取材し、深い内容の特集を作っている」と池田氏は語る。
経済メディアの新しい王道を目指すとの展望は、昨年5月に3代目編集長に就任した池田氏が掲げた。その本人はもともとは「伝統メディア」の出身だ。
07年にダイヤモンド社に入社し、書店営業を経て「週刊ダイヤモンド」編集部で経済記者のキャリアをスタート。金融や自動車業界などの取材を経験した。「めちゃくちゃお世話になった。僕を育ててくれた会社です」と話す一方、年々、フラストレーションもたまっていた。「自分の書く記事が、読者に届いているという感覚がだんだん弱くなっていた」
理由は明らかで、人びとの生活が「スマホ中心」に移り変わっていたためだ。入社翌年の08年に、ソフトバンクが米アップル社の「iPhone」を国内で発売し、10年以降に無線通信規格の第3世代(3G)から第4世代(4G)へ世代交代が進んだ。容量の大きい動画や音楽などの通信速度が上がり、スマホの普及が一気に進んだ。「多くの人は雑誌を読むよりも、スマホを見る時間が明らかに長くなっていた」
スマホ主流の時代に、影響力を持ちながら読者に情報を届けるにはどうすれば良いか―。「IT企業が伝統メディアで鍛えられた記者を採用するか、伝統メディアがテクノロジーに通じた人材を採用してデジタル化を進めるか。どちらが早く実現できるか考えた」。悩んだ結果、前者の選択肢を選び、16年にニューズピックスに移った。

◆「時代をつくる人」のメディアに

池田光史(いけだ・みつふみ)1983年生まれ。ダイヤモンド社を経て2016年4月からニューズピックス編集部。米国の電気自動車(EV)大手テスラの内情を描いた「テスラの狂気」をはじめ、「電池ウォーズ」「マクドナルド進化論」などの特集記事を手掛けた。19年5月から編集長。(写真は同社提供)

編集部には池田氏と同じように、経済誌や新聞社、テレビ局出身の記者が集まっている。特集の企画段階で、各記者が関心のあるテーマを挙げ、編集会議で決定する流れは伝統メディアと同じだが、読者からリアルタイムに得られる反応を生かすことがデジタルならではの特徴だ。
記事を目にした人数(ページビュー、PV)は参考にせず、利用者がどの記事を目当てに有料会員になったか、有料会員がしっかりと記事を読んでいるか、どれほどの人が飽きて退会したかといった動向がわかる指標と日々向き合う。それらの数字を参考にしながら「読者がいま読みたいニュースは何か」と仮説を立てて取材し、記事への反応をまた検証する。
「伝統メディアではジャーナリスト個人が伝えるべきテーマを設定してきたが、ともすれば一方通行になりがちだったと思う。大衆迎合するという意味ではなく、ニューズピックスはユーザーファーストの視点を採り入れている」と語る。
ターゲットとする主要な読者は、若い世代のビジネスパーソンで、有料会員の年齢層は40歳未満が7割ほどを占めている。池田氏が思い描くニューズピックスの将来像は「時代をつくるすべての人びとが、前のめりで読みたくなるメディア」という。
時代をつくる人とは? 「リスクを取る人。リスクを取って挑戦をする人が、時代をつくるのだと思います」。伝統メディアを飛び出し「新しい王道」を目指す自負をにじませた。
 

米国版㊧と日本版のスマートニュース。日本国内でも設定を変えれば米国版を閲覧できる。

◆米国でローカルニュースに注力

国別で世界最多の新型コロナウイルスの感染者が確認された米国では、人びとにとって身近な地域のニュースへの関心が高まっている。主要なニュースサイトの閲覧状況を調べた米国の調査会社コムスコアによると、3月16~22日にローカルニュースを見た人数は、2月17~23日に比べて89%増えた。
こうした環境下で、日米で利用者を増やしているのが、スマホ用ニュース配信アプリのスマートニュースだ。新聞や通信社、雑誌、テレビといった3000以上の外部メディアから提供される政治や経済、社会、エンタメなど多彩なジャンルのニュースを選別し、配信するサービスを手掛ける。利用者はアプリをダウンロードすれば、スマホ上で膨大な数のニュースを無料で読むことができる。
2012年に日本でサービスを始めると利用者は右肩上がりに伸び、14年からは米国でもスタートさせた。アプリのダウンロード数(19年10月時点)は日米を中心に世界で5000万に達した。
「利用者数はこれまで順調に推移してきた。特に米国では今年に入って大統領選の情報ニーズが高まっていたところに、新型コロナも加わり、多くの読者のアクセスが生じている」。同社フェローの藤村厚夫氏(66)は最近の利用状況をそう話す。

◆アルゴリズムでニュースを選ぶ

藤村厚夫(ふじむら・あつお)1954年生まれ。コンピューター関連雑誌の編集者、日本アイ・ビー・エムのマーケティング責任者を経て、2000年にアットマーク・アイティを創業。その後の合併でアイティメディア会長を務めた。2013年にスマートニュースに加わり、執行役員メディア事業開発担当。18年から同社フェロー。(写真は同社提供)

東京都渋谷区に本社を構え、従業員は約300人。ネット業界で有名なエンジニアだった鈴木健氏(45)=現会長兼社長・最高経営責任者(CEO)=と浜本階生氏(38)=現取締役・最高執行責任者(COO)兼チーフエンジニア=が12年に共同で創業し、「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」との社是を掲げる。
スマートニュースには多くのエンジニアが在籍するが、編集部は存在しない。利用者に配信するニュースの選別は、独自のアルゴリズム(計算手法)を駆使して自動で行っている。ネット上の膨大なデータを分析し、注目度や話題性が高いと認識したニュース、もしくは個別の利用者にとって関心が高いと判断したニュースを選んで表示する。
ニュース流通のプラットフォームとして圧倒的な存在感を誇る「ヤフーニュース」は外部メディアから提供されるニュースを自前の編集部で選び、見出しを付けて公開している。スマートニュースと同じように、アルゴリズムを用いてニュースを配信するアプリは「グノシー」などがあり、ニュースの選別に原則として人の手が介在しないことがヤフーとの違いだ。
人力ではなくテクノロジーの力でニュースを選んで届けるスマートニュースの強みは、国境を越えてサービスを展開できることだ。「日本と米国のサービスの仕組みは同じで、プログラムやソフトウエアも同じものを使っている」と藤村氏は説明。その上で現地のメディアや文化への理解が深い人材として、米有力紙ウォールストリート・ジャーナルで電子版編集長を務めた人物を採用し、サービスを展開してきた。
米国で特に力を入れるのがローカルニュースの配信だ。スマホの位置情報システムを活用し、それぞれの利用者が暮らす州や都市のニュースを選んで配信する。「広大な米国では国レベルの情報だけでは利用者のニーズは満たせない。人びとの生活圏で必要な情報を集め、届ける仕組みを整えている」と話し、コロナ禍で地域のニュースへの関心が高まる中、閲覧数も「すごく伸びている」という。
スマートニュースの主な収益源は広告収入。ニュースを無料で読む利用者を増やし、その合間に掲載する広告による収入で稼ぐビジネスモデルで、ニュースの提供を受ける外部メディアに一定割合を還元する。
コロナ禍で国内外で景気が悪化し、メディア業界では広告収入の落ち込みが顕著になっている。同社でも「広告の単価が下がるマイナスの影響が出ている」というが、日米の利用者は順調に伸びていることから「成長のスピードは加速している」と指摘。日米以外での将来の新たな事業展開も視野に入れる。
 

新聞は市民に寄り添う姿勢を


藤代裕之・法政大教授

新型コロナウイルスの感染拡大に伴うニュースへの関心の高まりを背景に勢いに乗るニューズピックスとスマートニュースと、生き残りをかけてデジタル対応への模索を続ける新聞社。それぞれが抱える課題を「ネットメディア覇権戦争」(光文社新書)の著書がある法政大社会学部メディア社会学科の藤代裕之教授(47)に聞いた。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)1973年生まれ。徳島新聞社で記者として司法・警察、地方自治を取材した。NTTレゾナントなどを経て、法政大社会学部メディア社会学科教授。2019年から法政大大学院メディア環境設計研究所の所長も務める。(写真は本人提供)


―「経済メディアの新しい王道」を目指すというニューズピックスを、どう評価するか。
ターゲットとする特定の層に影響力を発揮しており、新聞社とは異なるスタイルだ。経済週刊誌に近い。
最近はすごく動画を頑張っているのが目立つ。常に新しいことにチャレンジをしながら、変わり続けている印象を受ける。(各分野の専門家らがニュースについて投稿する)ピッカーのコメントなどよりも、今は動画のコンテンツの方が強いと感じる。伝統メディアが若い世代と接点を持つのに苦労をする中、ターゲットを絞ったビジネスパーソン相手の新しいメディアとして、存在感は高まっていると思う。
―今後の有料会員の拡大についてはどう見ますか。
若手のビジネスパーソンや意識の高い大学生を含め、かなりアプローチできていると思う。エッジの立った(先鋭的な)メディアなので好き嫌いが分かれる面もあり、爆発的にユーザーが増えることはないと思うが、社会の新たな潮流をとらえるメディアとして影響力はしばらく拡大していくと思う。
―スマートニュースは独自のアルゴリズム(計算手法)を駆使して多様な情報をユーザーに届けることで、「民主主義のプラットフォーム」として公共的な役割を担おうとしている。
掲げている理念は新聞に近い。基本的にその方向で取り組んでいると思うが、アルゴリズムがどのようにチューニング(調整)されているか、外部からはブラックボックスになっている。民主主義のプラットフォームとして公平性や透明性があると人びとに実感してもらうためには、アルゴリズムの仕組みについて、オープンに議論をする場や監査の取り組みが必要だと思う。
例えば、選挙に関するニュースではどのように情報を選んで出すかということが、有権者の投票行動に影響を及ぼす。アルゴリズムの計算式を見せられてもわれわれは理解できないが、だからといって説明責任がなくなるわけではない。新聞が第三者による紙面検討会を開いて議論をしているように、スマートニュースでも社内的な議論を一部公開するなど、工夫すればできると思う。理念を掲げるのは良いことなので、取り組みに期待したい。
―ネットの新興メディアが存在感を高める一方、伝統メディアの新聞の現状をどう見るか。
流れとして紙のメディアはユーザーが減少し、高齢化が進んでいる面は否めない。その結果、新聞は高齢者のためのメディアになっていると思う。若い世代の困り事を含め、社会のテーマを広く扱えるようになっていないのではないか。
例えば、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って在宅勤務が広がったが、自宅で子どもが走り回る中で社内の会議をするにはどうすれば良いの?とか、どんな絵本なら子どもが興味を持つの?とか、若い世代の人たちが知りたいことがある。そういった声に耳を傾けて記事で答えることができれば「新聞社は自分たちの声を聞いてくれる」と読者も実感する。困り事が解決するなら、その対価も支払うだろう。
大学生と話をすると「批判ばかりしている野党と新聞は嫌いだ」という声を聞く。現政権が良いとも思わないけど、野党と新聞は文句ばかり言っているじゃないかと。反権力な部分は社会の役割として必要だろうが、今の新聞はかしこまりすぎていると思う。市民の困り事や悩みにもっと寄り添って、一緒に考えるという姿勢を重視した方が良いのではないか。

関連キーワード

PR情報