東京古書会館の市場 コロナ禍にも負けず静かな熱気 2ヵ月ぶり再開

2020年7月6日 07時06分

商品をじっくり選ぶ入札の参加者ら

 国内最大の古書取引が行われる東京古書会館(東京都千代田区)。戦中、戦後もほそぼそと続いた古書市場が、今春はコロナ禍のため、約二カ月にわたって開催の自粛を余儀なくされた。ウイルスの感染防止対策に知恵を絞り、六月から徐々に再開した市場を、同二十四日に取材した。 (北爪三記)
 古書店街・神田神保町。八階建ての会館は、駿河台下交差点の近くにある。午前九時前に着くと、荷さばき場に、ぎっしり本が積まれた大きな台車がいくつもあった。受付そばには消毒液や検温機器が並ぶ。「入館者はマスク着用で、名前も書いてもらいます」。都古書籍商業協同組合の広報担当、大場奈穂子さん(44)が説明する。
 組合は、都内の古書店五百七十四店(昨年三月末現在)が加盟。正式には「交換会」と呼ばれる市場を、組合員有志でつくる六つの「市会(いちかい)」がそれぞれ決まった曜日に運営し、会館三、四階で平日毎日開催してきた。都外の各道府県の組合員も参加できる。
 しかし、四月七日の緊急事態宣言を受けて組合は会館を閉鎖。宣言解除後の六月一日から開館し、まずは一日おきに市場を再開、十五日から毎日の開催に戻した。再開に当たり、会場の窓を開けて換気に努め、着席して商品を回す「廻(まわ)し入札」は控えることにした。組合員にも、滞在時間の短縮や必要最低限の会話などの協力を求めた。
 市場に並ぶ商品は市会ごとに特色があり、訪ねた日は「東京資料会」の開催日。法律や歴史、理工学などさまざまな分野の専門書や学術雑誌を扱うのを売りにする。午前十一時までに集まった大量の本が、一フロア二百平方メートル超の会場に次々と山積みされていった。

開札作業を進める運営メンバーら

 三階にある本部前には、青毛氈(もうせん)を敷いたテーブルが。ここに並ぶのは、高値が予想される目玉商品だ。大正三年の「満州経済要覧」や写真家細江英公さん撮影とされる作家武者小路実篤の写真、民放テレビ局の社史など、まさにバラエティーに富んでいる。
 正午に開場すると、マスク姿の組合員らが続々と入ってきた。手には、会場入り口に備えられた縦九センチ、横六センチ強の入札用紙の束。最低入札価格は二千円で、数冊から数十冊を一くくりにしたものも多い。商品名や注意点などが書かれた封筒が付けてあり、入札は、各自が入札用紙に値段と屋号を書いて封筒に入れる「置き入札」で行われる。
 「今はネットでオークションや個人売買もあり、東京市場に良い品物を集める苦労が多くなってきました」と会の田中俊英さん(50)。全く同じ状態の品は二つと無いのが常であり、「やはり古書は実際に見て触って確かめるのが基本なんです」と現物主義を説く。
 参加者は目を付けた品を手に取り、ページをめくって入念にチェックしたり、入札用紙に値段を書き直したりと、真剣そのもの。封筒に触って厚みを確かめる姿もあった。顔見知りと再会を喜んでいた安藤章浩さん(44)は「市場は同業者の情報交換の場でもある。普段はもっとにぎやかなんですけどね」と残念がる。
 午後一時半から開札が始まった。青いエプロンを着けた運営メンバー約十人が、手分けして封筒を開けていく。一番高い値段を書いた人が落札できる仕組み。落札者の札を商品に付け、封筒に落札者名と落札額を書き込んで残りの札とともに集め、本部席で会のメンバーが確認する「改め」が行われる。商品名と落札金額、落札者をアナウンスする「発声」は、感染防止のため控えている。
 すべての開札と改めは、午後三時四十分ごろに終了。この日、参加した売り主は四十七店、買い主は百二十一店だった。会の松本直さん(62)は「市場は商売であるとともに、買いたい人と売りたい人、学術・文化をつなぐ場でもある。これからも盛り上げていきたい」と話した。

開札の結果を確認する作業「改め」をする本部席

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