マスク時代の新接客術 百貨店・目元で笑顔表現/JR・アナウンス工夫

2020年7月6日 07時07分

開店前、マスク姿で笑顔のトレーニングをする従業員=名古屋・名駅の名鉄百貨店本店で

 接客の現場では、これまでタブーとされてきたマスク。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、今ではすっかり定着した。声が通りにくい、表情で伝える情報が減るといったデメリットもある中、現場では「マスク着用こそ客への心遣い」ととらえ、新たな接客の在り方を模索している。 (佐橋大)
 六月下旬、開店前の名鉄百貨店本店(名古屋・名駅)。各売り場のマネージャー約四十人が集まって行っていたのは、その名も「笑顔トレーニング」だ。
 「ほほの筋肉を盛り上げるよう意識しながら、マスクの中の口を開いて『イー!』」。販売サービス担当課長の牧良子さん(59)の呼び掛けに応じ、マスク姿のマネージャーたちは、手鏡に映った顔を確認する。見えている目元だけで、笑顔で接客していることが伝わるようにするのが、週一回のトレーニングの目的だ。
 同店は一カ月ぶりに全館で営業を再開した五月十八日以降、店員にマスク着用を義務付けた。しかし、マスクをすると、表情が隠れ、冷たい印象を与える可能性も。指導役の牧さんによると、目尻を下げることが笑顔に見えるポイントだ。マスクで隠れている部分も大げさに笑顔をつくろうと意識すれば、自然に目尻が下がり、優しげな表情になるという。全ては「お客さまに気持ちよく買い物をしていただくため」だ。
 同店を含め、日本ではこれまで、マスクを着けて接客をするのはよくないとされてきた。約三十年前から東海地方の企業を中心に、マナー講師を務める人材派遣会社ハーモネット(同市中区)会長の近藤敏子さんによると、マスクを着けると表情が分かりにくいほか、声もくぐもる。そうしたデメリットがあるにもかかわらず、マスクをしたままで店頭に出るのは「よほど体調が悪い証拠。さらに、そうした店員に接客させるのは客に失礼だ」という考えが根底にはあるという。
 ところが、コロナ流行後は、状況が一変した。マスクをすることが「客への心遣い」に。銀行や小売店、飲食店などではマスクでの接客が常識になった。

マスク姿でホームに立ち、安全確認をする小嶋さん=愛知県安城市の東海道新幹線・三河安城駅で(JR東海提供)

 表情に加え、客に声をしっかり届けることに力を入れる職場も。「到着の列車は−」。JR東海の東海道新幹線・三河安城駅では二月下旬から、ホームでアナウンスする際、通常よりゆっくり、はっきり、丁寧に話すよう心掛ける。同駅の小嶋章輸送主任(63)によると、サービスのためには何ができるかを駅員同士で話し合った結果だ。表情筋の使い方も研究。業務前は鏡を見て笑顔に見えるよう確認しているという。
 客もほぼ全員がマスクをして顔が見えにくい中、相手の感情を読み取ることも接客には欠かせない。名鉄百貨店本店服飾雑貨売り場のマネージャー、上村嘉臣さん(34)は「声のトーンや身ぶりに注意を払っている」と話す。例えば、指で机などをトントンとたたくしぐさは、イライラの表れであることが多いという。
 ところで、最近はカラフルなマスクが数多く出ているが、接客に向くのは何色なのか。近藤さんによるとマナーの観点からマスクを何色にすべきだといった考え方はないが「着る服と同じように相手に不快感を与えないことが大事」。その場の状況に合った色使いが望ましいという。
 ちなみに、名鉄百貨店は原則、「清潔感が感じられる」白、JR東海は会社が準備した白無地のマスクを着けている。感染対策と、気持ちのよい接客をどう両立するか。各社とも工夫を凝らしている。

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