<東京パラリンピック マイ・ウェイ!>くるり「270度」 磨いた背負い投げ 視覚障害者柔道・瀬戸勇次郎(20)

2020年7月6日 08時58分

昨年12月の全日本大会で藤本聡(下)を破り2連覇した瀬戸勇次郎=東京・講道館で

 素早く懐に潜り込み、肩を相手の胸に押し当てて、くるりと回転。勢いよく畳にたたきつける背負い投げが、視覚障害者柔道男子66キロ級の瀬戸勇次郎の得意技だ。「180度でなく、270度くらい回る意識。回転の威力をそのまま相手に伝えて投げている」と胸を張る。3年前に健常者柔道から転じ、頭角を現したホープ。新型コロナウイルス禍で初出場を目指す東京パラリンピックが延期されても「いつになろうと、次の試合に向けてやっていくだけ」と前を向く。
 生まれつき色覚障害に伴う弱視で、両目の視力は0.1に満たない。兄の影響で4歳から始めた柔道では、視界が限られているせいか、いつも組み手争いで劣勢になり、負けてばかり。楽しくはなかった。何度も辞めようと思いながら、「進学するたびに先輩や先生に部活に誘われ、何となく続けていた」という。
 高校3年の夏、転機が訪れる。関係者の紹介で初めて出場した視覚障害者柔道の学生大会でいきなり優勝。組み合った状態で「はじめ」の声がかかるこの競技なら、苦手な組み手争いはない。「結果が出ると、目標が見えてくる。全力でやると、楽しくなる」
 向上心を持って取り組むようになり、パラリンピックで3度金メダルを取った同じ階級のレジェンド、藤本聡(44)=徳島県立徳島視覚支援学校職=の存在を知った。優勝した学生大会から3カ月後、初めて畳の上で対峙(たいじ)した。結果は、あっさり一本負け。「格の違いを見せつけられた」
 それから、腰を落として相手を引き寄せる視覚障害者柔道の戦い方に体を慣れさせ、背負い投げにも磨きをかけた。組み敷かれそうになっても本能でかわす反射神経は天性のもの。直接対決は2敗した後、4連勝。東京パラへの1枠を争うポイントランキングでも追い抜いた。
 最後の選考対象の国際大会を今年4月に残すのみだったが、コロナ禍で中止に。接触の多い競技だけに、組み合っての練習もできない。「パラ延期より、練習できないことの方が不安」と明かす。
 特別支援学校の教員を志す大学生でもある。自粛期間中は帰省し、オンライン授業の合間に一人で打ち込み練習やランニングなどを続けた。来夏の東京パラの日程と教員採用試験が重なる可能性もあるが、「まあ、柔道をやっているうちは、教員じゃない別の何かをやるかもしれない」と自分の行く末も思案する。
 「今のところ、自分はパラの試合も他とそんなに大きさの違いは感じない。でも、藤本さんが『本当にパラはすごい』と言うので、実際に出られたら、価値観が揺らぐかもしれない」。世界中から強者が集う舞台。想像が膨らむ。「競技をパラで知ってもらえれば」という思いもある。
 かつては楽しくなかったが、今は「一番楽しい」と言い切れる柔道。一日も早く稽古を再開できる日を待っている。 (兼村優希)
せと・ゆうじろう> 2000年1月27日、福岡県糸島市生まれ。県立修猷館(しゅうゆうかん)高3年のとき、団体戦全国大会の金鷲旗高校大会に健常者とともに出場したのが関係者の目に留まり、視覚障害者柔道に転向。19年アジアオセアニア選手権で銅メダル。全日本大会2連覇中。福岡教育大3年

視覚障害者柔道 弱視や全盲の選手らが障害の程度に関係なく、男女別と体重別にのみ分かれて戦う。試合は互いの襟と袖を持った状態から始まり、両者が離れると審判が「まて」を宣告し、組み直させる。力勝負の側面が強く、一本を狙う豪快な投げ技も見どころ。


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