タイの民主活動家 近隣国で次々失踪、一部は遺体で発見

2020年7月6日 13時55分

タイ・バンコクのカンボジア大使館前で6月8日、ワンチャラームさんの救出を訴える民主活動家の仲間ら

 タイの民主活動家の男性が亡命先のカンボジア・プノンペンで何者かに拉致され消息を絶ったとして、国際人権団体が真相究明を訴えている。タイでは2014年の軍事クーデター以降、近隣のラオスやベトナムに逃れた人のうち少なくとも8人が同様に失踪。一部は遺体で発見されたという。両政府の関係当局は調査の姿勢は示しているが、動きは鈍い。 (バンコク支局・岩崎健太朗、写真も)
 「う、息ができない」
 6月4日夕、ワンチャラーム・サタシットさん(37)は買い物に出たアパート前の路上で、バンコクに住む姉のシタナンさん(47)と電話中にうめき声を残し、会話が途絶えた。何らかの事故に遭ったと思ったシタナンさんは、すぐに弟の友人に連絡した。友人は20分後、「落ち着いて。弟は拉致された」と知らせてきた。目撃者や防犯カメラ映像から、武装した数人の男に車で連れ去られたとわかった。
 タイの民主化を求める活動家のワンチャラームさんは、プラユット現首相ら軍部が主導した14年5月のクーデター後に国外に移り、ネットなどで軍政や王室への批判を展開。18年に、コンピューター犯罪法違反容疑で逮捕状が出され、タイ政府がカンボジア政府に引き渡しを求めていた。
 失踪前日も、フェイスブックに動画を載せ、「首相は口だけ。国家を運営する能力がない」などと追及していた。

◆政府の調査進まず 軍も関与?

 カンボジア警察は「情報がない」とし、タイ政府も「他国の管轄下のこと」と静観の構えをみせた。SNSでは「#ワンチャラームを救え」のメッセージが国内外に拡大し、タイでは非常事態宣言下にもかかわらず抗議集会が開かれ「政府は国民を守らないのか」といった声が上がった。タイ議会の委員会でもこの問題が取り上げられ、国連や欧州議会も調査を要請。当局は事実確認を約束したものの、「判明したことはない」と進展はみられていない。

バンコクで6月17日、「誰もこの事件を扱ってくれない。弟が間違ったことをしたのなら謝るので、どうか無事に返してほしい」と訴えるワンチャラームさんの姉シタナンさん

 関係者の間では、政府や軍の関与を追及する声が強い。かつて同じグループで活動し、不敬罪で7年間投獄されたサムヨットさん(59)は「権力批判を続けていても恐れることはないという空気をつぶすために標的にされたのだろう。本気で捜査しない両政府の対応を見れば、何が起きたか明らかだ」と話す。「拉致された直接の原因になったのかは不明だが、彼は新型コロナウイルス対策での消毒剤の購入にかかわる軍の不正疑惑に言及していた」と打ち明けた。
 反政府活動家の不可解な失踪は珍しくはない。ヒューマン・ライツ・ウオッチなどによると、18年12月、ラオスに逃れて政府への批判活動をしていたタイの男性が、ビエンチャンの家から消えた。数日後、タイ国境のメコン川で、行動をともにしていた仲間2人の遺体が麻袋に入って見つかる一方、男性の行方は分かっていない。
 直後には、不敬罪で逮捕状が出ていた別の3人がラオスから移動先のベトナムで拘束された。タイに送還されたとみられたが、タイ政府は否定。その後の行方は分かっていない。

◆人権議連「憂慮すべき事態」

 近隣国の反体制派がタイに滞在中、突然、姿を消すケースもあった。難民申請中だったベトナム人男性が昨年1月、バンコクのショッピングモールで白昼、何者かに連れ去られた後、ベトナム・ハノイの刑務所で所在が確認された。同8月には、第三国への亡命を求めていたラオス人の30代男性が、仕事帰りに失踪したままだ。
 「批判勢力を追い詰める見えない協力関係があるとすれば、憂慮すべき事態だ」。東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の政治家らでつくる人権議員連盟(APHR)は、こうした事例を放置してはならないと警鐘を鳴らす。
 座長で、マレーシア国会議員のチャールズ・サンティアゴ氏は「政府がこのような行動を許すなら、この地域は独裁天国となり、国境を越えた迫害が横行する。指導者が亡命する人々を受け入れ、保護しなければ民主主義の国とは到底いえない」と訴える。

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