米国の連邦最高裁で保守化が進む可能性 トランプ大統領再選なら 中絶・移民など重要判決にも影響

2020年7月8日 10時45分
 米国の政治、社会で大きな権限と役割を担っている連邦最高裁が今、歴史的な岐路に立っている。11月の大統領選の結果次第で、保守派とリベラル派に分かれる9人の判事の均衡が破れ、数十年に及ぶ保守化が「完成」する可能性が強まるからだ。仮にそうなれば女性の中絶や移民などを巡る重要な判決も次々と見直され、米社会の在り方が大きく変わるかもしれない。(ワシントン・金杉貴雄)

◆保守派・リベラル派・中間派に分かれる9人の判事

 司法、行政、立法が互いに抑制する「三権分立」。政治問題になかなか判断を示さない日本の裁判所と異なり、米国の連邦最高裁は大統領の最重要公約でも「憲法違反」と判断すれば実行を認めず、「法の番人」の役割を果たしてきた。
 独立性を維持できる仕組みが、連邦裁判所判事の終身制。日本の最高裁判事は70歳定年だが米国は死亡か自ら辞めるまで代わらない。20~30年勤務も珍しくなく、最高で90歳まで続けたつわものもいる。
 指名、任命は大統領が行うが、全9人の構成が変化するのは数十年かかる。米国は1930年代から約40年は民主党大統領が多く、判事もリベラル派が増加。その後現在まで52年間では32年間を共和党政権が占め最高裁も徐々に保守化してきた。
 その流れの中、連邦最高裁はトランプ氏のもとで分水嶺ぶんすいれいにある。オバマ政権では「保守派4人、リベラル派4人、中間派1人」で均衡していたが、トランプ氏は就任1期目で2人の判事を任命。「保守派5対リベラル派4」となり、保守派が過半数を占めたのだ。

◆大統領が任命、「クビ」なしの終身制

 判事たちは任命後は「クビ」にならず、法律家として自由に判断する。保守派判事でも、トランプ氏や共和党の意向に沿わない判断をすることもある。今年6月には、むしろリベラル寄りの判断が3件続き驚きが広がった。
 性的少数者(LGBT)労働者差別を禁じる歴史的判決には、保守派判事2人が賛同。不法入国した若者の救済策を廃止する政権の政策を阻止した判決と、中絶を大幅制限する州法の無効判決は、保守派のロバーツ長官がリベラル派4人に加わり5対4で成立した。
 いずれもトランプ政権の方針を覆す内容で、保守派判事の「裏切り」にトランプ氏は「恐ろしく政治的な決定で、共和党員や保守派の人々の顔に散弾銃を撃ち込んだ」と激怒。支持者は落胆した。
 ロバーツ氏は過去リベラル派判事を「オバマ判事」と揶揄やゆしたトランプ氏に「ここにオバマ判事もトランプ判事もいない」と反論をした言葉の通り、政治に対する司法の独立を示した。

米ワシントンの大学で2月10日、討論会に参加した連邦最高裁のギンズバーグ判事=AP


◆リベラル派が高齢化、保守派に交代すれば優位が決定的に

 一方、怒りのトランプ氏が狙うのは、さらなる最高裁判事の交代だ。
 注目はリベラル派ギンズバーグ判事(87)の去就。現判事最高齢で、がんで4回発作を起こし今年初めにも入院。秋の大統領選までは執念で引退しないとみられるが、その後いつ交代してもおかしくない。2番目の高齢ブライヤー判事(81)もリベラル派で交代期は近い。仮にトランプ氏が再選され、判事を1人でも保守派に代えれば「保守派6人、リベラル派3人」と保守派優位が決定的となり、10年以上続く可能性が高い。その間、女性や少数派の権利などを巡る重要な憲法判断の変更が予想される。
 国民の約25%を占めるとされるキリスト教右派福音派の人々は、中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェード判決」見直しを熱望。トランプ氏は新たな保守派判事任命を公約し、1期目に続き同派の熱烈な支持を得て再選の原動力にしようとしている。対する民主党バイデン前副大統領も最高裁判事に「初の黒人女性を任命する」と公約し、少数派からの熱い支持を得ようとしている。
 司法監視団体「正義のための同盟」のナン・アロン代表は「次の大統領選は連邦最高裁にとって、かつてなく重要になる。今後数十年の判決を決定づけることになる」と指摘している。

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