「死も考えた」…中国弁護士一斉拘束から5年 今も続く人権弾圧

2020年7月9日 06時00分

「捜査も裁判もでたらめ」と話す王全璋氏=中沢穣撮影

  中国で人権派弁護士ら300人以上が拘束された事件の着手から9日で5年となる。4月に出所した人権派弁護士、王全璋おうぜんしょう氏(44)は「自分の権利を守ろうとしただけで不当な弾圧を受ける。そんな状況が5年間で悪化した」と指摘。王氏の弁護士を務めた余文生よぶんせい氏(52)が6月に禁錮4年の判決を受けるなど、事件は今も終わらない。 (北京・中沢穣、写真も)

◆暗室で自白強要

 王氏は4月に懲役4年6月の刑期を終え、今は北京の自宅で過ごす。「最も苦痛だった」と話すのは、正式逮捕前に公的施設などに拘束される「居住監視」に置かれた約150日間だ。自白を迫る当局に光の全くない部屋に入れられ、1カ月間も両手を上げているように命じられた。寝返りすら許されず、一切の自由が24時間奪われる状態に「死も考えた」という。逮捕後に移された拘置所では約20平方メートルの部屋に最多24人が押し込められたが、「会話ができ、テレビも見られた。自由があるとすら感じた」と振り返る。

◆「捜査も裁判もでたらめ」

 裁判では、別の人権派弁護士の拘束に抗議したことなどが国家政権転覆罪に問われた。理由を尋ねると、当局者から「(パソコンで)字を打つ動作だ」との荒唐無稽な説明を受けたと苦笑する。「捜査も裁判もこれだけでたらめで、当局者も分かっていた。拷問が注目されるが、より重要なのは拷問が行われる背景、当局者が意図的に冤罪えんざいをつくり出せる制度の抜け穴だ」。弁護士資格は剝奪されたが、今後も法律の知識を生かして人助けをしたいと話す。

◆今も続く拘束や監視

 今も拘束が続く関係者もいる。18年1月に公開書簡で政治改革を求めた直後に拘束された余文生氏は、王氏と同じく秘密裁判で判決が下された。判決は余氏の妻、許艶きょえん氏(37)に電話で告げられたのみ。許氏は40回以上も余氏が拘束されていた拘置所を訪れたが、接見は一度も実現しなかった。判決後は収監場所すら分からない。
 許氏への監視も厳しい。北京の自宅前には監視用の小屋が造られ、北京で政治的な行事などがあると24時間態勢で10人以上の警察官が詰める。さらに7台の監視カメラが自宅を取り囲む。支援者や記者などとの接触を妨害する目的とみられる。許氏自身も3回、短期間の拘束を受け、自宅は5回も捜索を受けた。許氏は「捜索や拘束は夜や週末など(中学3年の)息子がいる時間を選んでいる」と憤る。当局者から「子どもを巻き込むのは簡単だ」と脅されたこともある。

◆「当局は法律守って」

 許氏も王氏もこの5年間での変化に悲観的だ。王氏は「当局に法律を守ってほしいだけで、私たちの目標は高くない。しかし当局は権威に傷がつくのを恐れ、社会の中で1種類の声しか許さない」と語る。
 王氏は香港国家安全維持法が施行された香港でも自身と同じようなことが起きうると指摘する。「(同法では)『国家安全への危害』が何を指すのかすべて(中国の)当局者が決める。いかなる解釈も可能であり、最も恐ろしい点だ」

人権派弁護士ら一斉拘束事件 中国で2015年7月9日から人権派弁護士や活動家300人以上が拘束された。大半は短期間で釈放されたが、一部が国家政権転覆罪などで実刑判決を受けた。習近平政権による民主派や人権派への弾圧を象徴する事件とされ、「709事件」とも呼ばれる。

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