被災地も激励 腹話術「日本一」35年で上演4193回

2020年7月9日 07時52分

「腹話術の通算上演回数日本一」の認定証を手にするしろたにさん=川崎市幸区で

 相棒の人形「ゴローちゃん」とともに、全国を巡って笑いを届けてきた腹話術師、しろたにまもるさん(79)=川崎市幸区、本名・城谷護=の上演回数が「日本一」に認定された。45歳の初演から数えて、35年間の通算は4000回超。「人間は心で動く。だから、心に栄養が必要なんだ」。そう信じ、今も記録を更新している。
 今年二月に訪れた長崎市立山里小学校の会場は、子どもたちであふれ返っていた。爆心地から北へ約六百メートル。被爆当時、在籍していた児童千五百八十一人のうち、およそ千三百人が亡くなったとされる。
 長崎県出身のしろたにさんも、原爆で兄を亡くしていた。公演では、原爆投下後の長崎で撮影したとされる写真「焼き場に立つ少年」を手に、ゴローちゃんとの掛け合いを演じた。
 ゴローちゃん「悲しいはずなのに、男の子はなぜ泣いていないの?」
 しろたにさん「よく見て。唇をかんで、血が出ているよね。当時、泣くことは許されなかったんだ」
 戦争を繰り返さないために「どうしたら?」と尋ねるゴローちゃんに、こう語りかけた。「あいさつだよ。グッドモーニングとか、世界のたくさんの国で、あいさつに『良い』という言葉が入っている。相手を思いやってあいさつすることが、平和を築くんだよ」
 会場の子どもたちが、よくうなずいていたという。いわゆるキリ番ではないけれども、四千百九十三回目になるこの公演で、「日本一」を刻もうと決めた。
     ◇
 しろたにさんは一九八五年、船舶設計技師のかたわら、腹話術を始めた。二〇〇一年の定年退職を機に、東京演芸協会に入りプロデビューした。
 三十五年間書きとめてきた「腹話術出演記録」によると、初演したおいの結婚式から数えて、二〇一八年十二月に川崎市内の集会で四千回に到達。このうち被災地の激励公演だけでも、三百五十回を超える。

しろたにさんが1985年の初演から書きとめてきた「腹話術出演記録」

 長崎公演を節目に、民間会社が運営する日本一記録認定・掲載サイト「NIPPON−1.NET」に申請。六月八日付で「腹話術の通算上演回数が4193回で日本一」と認定された。
     ◇
 しろたにさん「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」
 ゴローちゃん「今はどこにでもいるよ」
 ある特別養護老人ホームの公演で、突然笑いだした男性は入所から三年間、笑ったことがなかったという。大震災に見舞われた神戸の仮設住宅では、高齢の女性が「長生きしていて良かった」と拍手喝采。「疲れも吹き飛ぶ最高の褒め言葉でした」と振り返る。
 「笑い 優しさ 勇気」をモットーに、「体は丈夫だから、あと五、六年は続けられるかな」としろたにさん。コロナ禍で公演中止が相次ぐなど、影響は避けられないけれども、「日本一」の記録は通過点にすぎない。
 文と写真・石川修巳

今年2月、長崎市立山里小学校で腹話術を上演するしろたにさんと人形のゴローちゃん


関連キーワード


おすすめ情報