都が感染状況の予測文書2通を廃棄 1通は本紙の情報公開請求後に<新型コロナ> 

2020年7月12日 05時50分
 新型コロナウイルスの感染対策を巡り、3月に厚生労働省クラスター(感染者集団)対策班の押谷仁・東北大教授から、東京都に示された感染状況の予測文書2通を、都が廃棄していたことが分かった。このうち1通は、5月下旬に本紙が都に情報公開請求した後に廃棄した。小池百合子知事は予測内容を「対策の参考にした」と述べており、廃棄によって感染拡大直前の政策決定過程が不透明になっている。(中沢誠)
 都が廃棄したのは、押谷氏らが都内の感染者数などを予測・分析した2通の文書。都の説明では3月17日と19日に示された。17日文書では、現状の対策のままだと2週間後に都内で約1万7000人に増えると予測。都が提供した情報を基に、押谷氏らが精査した19日文書では、感染者数が約3000人に減った。
 押谷氏はさらに精査し、都と意見交換した21日に、最終的な予測として「320人」を示した。小池知事は23日の記者会見で、21日文書だけを公表し、「感染者が増加する見通しがあり、医療体制をしっかり準備していく」と述べた。
 本紙は5月下旬、厚労省の対策班から3月に都に提供された文書やメールを情報公開請求。都は6月中旬、21日文書以外は不存在とした。
 最初の3月17日文書について、都の吉田道彦・感染症危機管理担当部長は「あやふやな試算だったので押谷氏との会議後、すぐに廃棄した」と説明。次の19日文書は「中間の試算で、押谷氏からメールで受け取った」とし、「6月、メールの容量がいっぱいだったので削除した」と答えた。
 小池知事は4月6日の会見で、「最初1万7000、その次3000が出て、300になって数字が大きく揺れていた」と、廃棄された文書の中身に言及していた。これについて、吉田部長は「21日の文書を知事に説明した時、それまでの押谷氏とのやりとりも口頭で報告した」としている。
 都福祉保健局は廃棄した2通の文書について、「算出根拠が不十分な作業途中のもので、組織としての利用を想定していない」と説明し、「行政文書には当たらない」としている。
 押谷氏は対策班の中心メンバーの1人で、世界保健機関(WHO)で2002年に重症急性呼吸器症候群(SARS)の対策を担った経験がある。押谷氏に一連の経緯を質問したところ、東北大を通じて「厚労省に問い合わせてほしい」と回答があった。厚労省の対策班は「有識者として押谷氏が都に助言したもので、厚労省が発出した文書ではない」としている。

◆NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長「途中段階も公文書」

 途中段階の内容だから公文書に当たらないという都の説明は論外だ。途中の経過として暫定的に提供された文書でも、職務上取得して組織内で用いれば公文書に当たる。文書の中身は関係ない。都の説明に従えば、最終的に決まったものだけを残せばいいことになる。それでは意思決定のプロセスが見えない。都は、まだ収束していないコロナへの対応を場当たり的なものにしないためにも、適切に公文書を管理するべきだ。

◆「検証逃れ」「証拠隠し」そしり逃れず

 東京都による感染状況の予測文書の廃棄は、意思決定過程を検証できるように記録を残す、という公文書管理の理念をないがしろにするものだ。
 都は取材に「文書を残すことで、なぜ前の試算を使わなかったのかという意見が出る可能性があり、後に混乱を招くと判断した」と説明する。これでは検証を逃れるため、証拠を隠したと取られても仕方がない。
 都は豊洲市場の移転を巡り、検証に必要な文書が残っていなかった反省から、小池百合子知事の1期目に公文書管理条例を作った。公文書の要件は「職務上取得した文書で、組織的に用いるもの」としている。
 取材では、複数の都関係者が廃棄された文書を見たと証言。内容は小池知事に報告され、知事自身も「対策の参考にした」と公言しており、この要件に当てはまる可能性は大きい。
 3月17~21日は、感染拡大により2020年東京五輪・パラリンピックの延期論が高まった時期と重なる。小池知事が週末や夜間の外出自粛を呼び掛けたのは、五輪の延期が決まった翌日の25日。都のコロナ対策に五輪が影響したのかどうかを含め、検証にはこれらの文書が欠かせないはずだ。
 09年の新型インフルエンザ流行を受けて都がつくった行動計画も、「対応を検証して教訓を得るため、対策の実施に係る記録を作成・保存し、公表する」と明記している。
 自らルールをゆがめ、検証を阻むようでは、都の判断を信じて自粛要請などを受け入れてきた都民らの理解は得られないだろう。(中沢誠)

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