レインボーの旗掲げ逮捕…命絶ったエジプトのレズビアン 性的少数者が生きづらい国で

2020年7月13日 13時55分
 エジプトで性的少数者(LGBT)の権利擁護に取り組んできた人権活動家サーラ・ヘガジさん(30)が6月、亡命先のカナダで自ら命を絶った。エジプトで受けた拘束中の拷問で心身に不調を来したとみられる。イスラム教徒が多数派で、同性愛などがタブー視される保守的な風土。容赦ない差別と偏見に傷つきながら、LGBTの人たちが居場所探しに苦闘している。(カイロ・奥田哲平)

◆「社会が私に叫んでいる」

6月に自ら命を絶ったサーラ・ヘガジさん。2017年9月の音楽コンサートで、レインボーフラッグを掲げて拘束された=弁護士提供

 「私は救いを見つけようとしましたが、失敗しました。旅は非情なもので、私は弱すぎて抵抗できませんでした。世界に向けて。あなたは残酷だったけど、私は許します」
 ヘガジさんは先月13日、こんな遺書を残して逝った。レズビアンを自認し、エジプトのLGBT運動の中心を担った。人生が一変したのは17年9月。音楽コンサートで、運動の象徴となっている虹色の旗を掲げ、「逸脱行為の扇動」を理由に逮捕された。
 弁護士によると、ヘガジさんは3カ月間の拘束中に「警察が同房者に命じ、セクハラ行為をさせた」と訴えていた。カナダに難民として渡った後も心的外傷後ストレス障害(PTSD)などに苦しみ、母親の最期に立ち会えず心労を重ね、治療を受けていた。弁護士が日記の一節を明かす。「社会が私に叫んでいる。『おまえはいらない』と」

◆法は認めても「神の創造に反した」と…

 そもそもエジプトでは、同性愛を明白に罰する法律はない。心と体の性別が一致しない「トランスジェンダー」は認められてもいる。だが、イスラム教の教義上で同性愛が禁じられ、伝統的価値観を脅かすと危険視される。LGBTの大半は沈黙を保ち、ヘガジさんのように公表する人には中傷が襲いかかる。

女性への性転換を公表し、LGBT権利擁護運動に取り組むマラク・カシフさん=本人提供

 友人マラク・カシフさん(20)は、男性だった13歳の時に「アブドルラフマン」の名前を捨て実家を飛び出た。周囲から「神の創造に反した」とさげすまれ、父親に殴られて「習わしに従うか、家を出るか」と最後通告を突き付けられた。
 性同一性障害の診断を受け、手術を受けて女性になった今も、カシフさんの戸籍は男性のまま。制度上は2年間の診断を受けた上で医師や宗教指導者でつくる委員会が認めれば、公的な性別変更が実現する。だが、宗教界は14年から出席せず、審査が滞っている。
 カシフさんは昨年2月に起きた鉄道事故で政府の責任を追及し、抗議デモを呼び掛けて3カ月間拘束。3度目の逮捕は、LGBT運動と無関係ではなさそうだ。電話取材に応じたカシフさんは「社会は私たちの存在を拒絶し、侮辱し、汚い言葉を投げ付ける。人権を認めない国家は、いつでも私たちを逮捕できる。あまりに不公平だ」と憤る。

◆「同性愛を助長」と弁護士から告発

 ヘガジさんが亡くなる直前から、国内ではLGBTを巡る論争が盛り上がっていた。というのも著名俳優ヒシャム・セリム氏(62)が5月、26歳の娘の性転換を公表したからだ。セリム氏は、「息子」となったヌールさんのカミングアウトを支持し、「勇敢だ」と受け入れ、このことは驚きを持って受け止められた。

男性への性転換を公表したヌール・セリムさん(左)と父親のヒシャム氏=ヌールさんのインスタグラムから

 ソーシャルメディア上ではおおむね好意的な声が広がり、社会の変化を感じさせた。ただ、その陰には男性優位の家父長制文化も見え隠れした。セリム氏自身でさえ地元テレビに「幸運なことに、男性になった」と発言した。
 ヘガジさんの死を受け、息子のヌールさんはインスタグラムに「なぜ私の存在を受け入れ、サーラやマラクを責めるのか。あなたの信仰を私たちに押しつけないでほしい。慈悲はどこにあるのか」と訴えた。すると弁護士2人が「若者に同性愛を助長する」としてヌールさんを告発。論争の高まりに冷や水を浴びせた。
 宗教と権威主義的な政治体制が絡み合う非寛容さの中でもがくLGBTの人たち。取材に応じなかったヌールさんに代わり、カシフさんが代弁した。「私たちの生き方を統制しないでほしいだけなんだ」

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