首相が誇ったクラスター対策、実は「崩壊寸前」だった 追跡調査に保健所は悲鳴

2020年7月15日 06時00分
<検証・コロナ対策2>
 国内に入ってきた新型コロナウイルスをどう封じ込めるのか。
 2月25日、首相の安倍晋三(65)は「クラスター(感染者集団)が発生している自治体をしっかりと支援する」と表明。厚生労働省はクラスター対策班を設置する。政府専門家会議は「感染者の8割は他人に感染させていない」と分析していた。残る2割を見つけて行動の自粛を求めれば、感染は拡大しないとみた。

報道陣に公開された厚生労働省クラスター対策班の室内=4月15日

 班には、世界保健機関(WHO)で重症急性呼吸器症候群(SARS)対策を担った東北大教授の押谷仁(61)と、感染の数理モデルを専門とする北海道大教授の西浦博(42)が参加。各地のデータを集めて感染傾向を分析し、深刻な地域に専門家を派遣する。
 現場で調査を担うのは自治体の保健所だ。感染者から聞き取り、だれからうつされ、だれにうつしたかを見つける。3月上旬まで感染者は多くなかった。保健所の人員で追跡でき、中国由来のウイルス対策は一定の効果が出ていた。

◆「見えないクラスター」が頻発

 「クラスター対策だけでは感染拡大を抑えきれないかもしれない」
 3月14日、東京駅の近くにあるビルの1室で、押谷は発言した。日本公衆衛生学会の専門家らが顔をそろえていた。東京を中心に、感染経路が分からないケースが出現。これが増えると、見えないクラスターの可能性が出てくる。
 追跡調査は記憶のあいまいさや協力拒否もあり、時間や労力がかかる。保健所は新型コロナの受診相談や検査の判断、入院先の手配も担っていた。「労務が過剰で疲弊している」。専門家会議副座長の尾身茂(71)は19日の会見で訴えた。
 このころ、欧州由来の感染が広がり始めていた。押谷は27日、保健所の負担軽減を「明日にでもやる、という気持ちでやらないと破綻する」と政府に注文する。東京では既に、限界に近い状況だった。

◆過労死ラインの2倍の労働も

 感染者が急増した3月末、都内の北区保健所では連日のように職員が午後11時まで居残った。日中は電話相談への対応、午後5時を過ぎると追跡調査へ。「今の体制ではやっていけません」。定例会議で担当者の1人は訴えた。

新型コロナウイルスに関する相談に対応する東京都練馬区保健所のコールセンター

 4月に入ると、都や区から増員があったが、調査は追いつかない。過労死ラインの倍、月173時間に達する職員や、精神的な不調を訴える職員も。都には各保健所から「ずっと調査する必要があるのか」との問い合わせが相次いだ。
 感染経路を追えないケースが増えても、厚労省はクラスター対策重視の旗を振り続けた。「調査も検査も入院も全部、全速力でやれ」。都幹部は政府の姿勢をそう受け取った。都医師会長の尾崎治夫(68)は厚労政務官の自見英子はなこ(44)に「保健所の業務が多すぎる。調査を止めさせてくれ」と電話で求めた。
 緊急事態宣言が解除された5月下旬、安倍は「日本モデルの力を示した」と誇らしげに話した。その柱だったクラスター対策について、尾身は6月の会見でこう振り返った。「3月末~4月下旬は機能しなくなった」(敬称略、肩書は当時)

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