<備えよ!首都水害>進化する予測システム 20分後、ここが危ない

2020年7月15日 07時29分

2010年7月の集中豪雨では明治通りが冠水し、立ち往生したタクシーも=東京都北区で

 台風も脅威だが、予測が難しいゲリラ豪雨も都市に大きな被害を与えてきた。二十分先の浸水被害を予測し、スマートフォンなどで知らせるシステムが来月からの試験運用を目指して準備が進んでいる。また、急激に発達する積乱雲の「タマゴ」をとらえて豪雨を予測する研究も実証実験を重ねている。

リアルタイム浸水予測システムの試験運用で利用者に提供されるパソコン画面のイメージ

 二〇〇五年、二十三区西部を中心に一時間一〇〇ミリを超える集中豪雨があり、杉並区など都内で五千八百棟超が浸水。〇八年には豊島区の下水道にいた作業員五人が流され亡くなった。
 浸水が早く予測できれば対策はとりやすい。そこで期待されるのが、早稲田大理工学術院の関根正人教授が開発した都市浸水予測システム「S−uiPS(スイプス)」だ。

スマホ向けのイメージ画面。道路に塗られた色はその時刻に予測される浸水の深さ。赤色は0・8メートル以上になることを意味する(いずれも関根正人教授提供)

 二十三区内の約五十万本の道路と約六十万本の下水道ネットワーク、河川の深さや建物の建ぺい率など、すべてのインフラのデータを網羅した「東京の街」をコンピューター上に再現する。そこに気象庁の三十分先の降雨予報などを入力し、下水管や貯水施設の水量や川の水位などを計算する。所要時間は十分。つまり二十分の猶予が生まれる。
 浸水リスクが高いのが地下と、道路や線路をくぐる道(アンダーパス)。この予測システムを使えば、地上入り口の止水板、防水扉の設置や、通行止めのタイミングを素早く判断できる。緊急車両の経路選択、避難の判断にも生かせる。

埼玉大の屋上に設置されたレーダー「エムピーパー」

 来月に開始を目指す試験運用では、スマホなどでスイプスのサイトにアクセスすると、知りたい場所の二十分先の浸水状況が確認できるようになる。関根教授は「できるだけ早く実用化したい」という。
 ゲリラ豪雨を早期に予測する研究も進む。情報通信研究機構(本部・小金井市、NICT)などの研究グループが開発した「マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(エムピーパー)」だ。

雨の強さの観測データを3D表示した画面イメージ(いずれも情報通信研究機構提供)

 水平、垂直方向二種類の電波で雨粒の大きさなどを計測。雨雲の誕生から成長過程を三十秒ごとに立体的にとらえ、三十分先の豪雨の範囲や強さを予測する。一八年に実証実験としてモニター二千人に予測を提供。今月七日からは日本気象協会がエムピーパーの観測データを使ったスマホ向けアプリ「tenki.jp Tokyo雨雲レーダー」の公開を始めた。NICT電磁波研究所リモートセンシング研究室の中川勝広室長は「運用方法や態勢など課題はあるが、予測精度を高めて一般の人が利用しやすくしたい」と話している。

◆松尾一郎先生のミニ講座 「球磨川の悲劇他人事でない」

 三日午後から降り始めた梅雨前線豪雨は、降り始めから五〇〇ミリ近くの降雨を球磨川流域にもたらした。ハザードマップで想定した降雨量よりも多い集中豪雨だった。球磨川は治水対策が十分でなく脆弱(ぜいじゃく)だった。河川の耐力以上の雨にはなすすべもなく、多くの人的、物的被害が生じた。
 私は、犠牲者が出た高齢者福祉施設「千寿園」がある熊本県球磨村にいる。四年前から、水害に備えたタイムライン(防災行動計画)の策定や運用支援、住民防災に取り組んできた。
 タイムラインに従って三日夕方に気象台や河川管理者、村はテレビ会議で危機感を共有した。集落孤立のリスクもあり、村はかなり早い段階から避難所の開設を準備した。前倒しで防災無線で避難を呼び掛け、防災管理官が最後は涙声で緊急避難を訴えた。このことで多くの人々が避難した。
 千寿園ではスタッフや村の職員が限られた時間で入所者を高い場所に移したが間に合わなかった。避難計画があり、年二回の避難訓練で水害に備えたが、犠牲者が出た。都内でも高齢者福祉施設は多い。対岸の火事とせず、実効的な避難計画を急ぐべきである。(防災行動学・東大大学院客員教授)
 文・大沢令/写真・川柳晶寛
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