高齢者施設の水害対策 夜間は手薄、避難は日中に

2020年7月15日 07時59分
 熊本県南部を襲った豪雨では、特別養護老人ホームに濁流が押し寄せ、逃げ遅れた14人の高齢者が亡くなった。昨年10月の台風19号でも高齢者施設の浸水が各地で発生。当時、間一髪で人的被害を逃れた施設では、より早期に行動することや、安全な場所への施設の移転など、手探りで対策を続けている。 (細川暁子)
 昨年十月の台風19号で、長野市の特別養護老人ホーム「りんごの郷」は千曲川が決壊して一階が八十センチほどの高さまで浸水したが、水が来る前に利用者八十七人を職員が二階に避難させ、全員が救助された。
 施設長の千野真さん(66)が異変に気付いたのは午前一時ごろ。施設は千曲川から約五百メートルの浸水想定区域にあり、千野さんは、河川事務所のカメラに写る川の水位をネットで確認していた。突然映像が消え、消防の半鐘が鳴り響いた。市から川の越水を知らせる防災メールも届いた。
 施設では、水害時は約百メートル離れた四階建ての民間会社のビルに避難することになっていた。だが、川が氾濫している状況で、利用者を屋外に避難させることは危険だと判断。二階への垂直避難を決めた。
 車いすやベッドに寝たきりの高齢者も複数いたが、職員十四人で対応。エレベーターが利用でき、午前二時には避難させることができた。水が流れ込んできたのはその二時間後だった。
 千野さんは「浸水までに三時間あったから、避難できた」。一方、高齢者施設では通常、夜間に人手が手薄になることを指摘。豪雨など災害が想定される場合「空振りになっても、できるだけ日中に避難することも考えなければ」と話す。
 埼玉県川越市の特養「川越キングス・ガーデン」も台風19号で浸水。床上一・五メートルに達し、停電でエレベーターも止まった。だが、職員が利用者百人をおぶったり、ベッドごと運んだりして一階から二階に避難させ、全員が無事だった。
 通常、夜間の職員は五人だが、施設責任者の渡辺圭司さん(58)の呼びかけで二十四人が待機。訓練を年一回行っており、職員も落ち着いて行動できたという。
 同施設でも、計画では近くの小学校に避難することになっている。しかし、渡辺さんは「入所者には認知症の人や、たんの吸引など医療的ケアが必要な人もおり、一般の避難所に大勢で行くことは現実的には難しい」。浸水の危険性が低い地域への移転を計画する。

◆計画作成、45%どまり

 高齢者施設での水害が繰り返される一方、対策は十分には進んでいない。
 二〇一六年に岩手県で介護施設の入所者九人が川の浸水から逃げ遅れ死亡した水害を受け、国は一七年に水防法を改正。浸水するおそれのある区域の介護施設などに、避難計画の作成と訓練が義務付けられた。
 計画では、避難場所への手段や経路を検討。避難の具体的な方法を決めておく=イラスト参照。だが、今年一月時点で、対象の七万七千九百六施設のうち計画を作成済みなのは約45%にとどまる。また、計画の想定通りに避難できる保証はない。熊本県によると、熊本豪雨で十四人が亡くなった球磨村の特養「千寿園」でも計画は作成され、訓練も行われていたという。
 福祉防災に詳しい跡見学園女子大の鍵屋一教授(63)は「避難が難しい場所への施設設置を規制する法整備や、施設移転に向けて国や自治体などの支援も必要」と指摘する。

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