客のいない店の前で

2020年7月15日 08時20分

 中華料理店のガラス越しになじみの店主の顔が見えた。こちらを向いた瞬間、目を伏せた。店に行く回数が激減しているからだ。
 できるだけ利用しようという思いはある。しかし感染者数が再び増え始めたニュースを聞くと足が遠のいてしまう。
 商店街を歩くと消費の力が目に見えて衰えているのが分かる。ガラガラの店内を見ると、なじみでなくとも悲しい気持ちになる。
 不思議なのは街角の経済が苦戦しているのに株価が堅調なことだ。大きく下落してもすぐに回復する傾向が顕著だ。
 バブル崩壊やリーマン・ショックと違い、今回は企業の生産力や金融システムなど経済の核心部分は生き残っている。さらに主要国が軒並み巨額の財政出動を繰り返している。巨大マネーが渦巻く中、投資家にとってコロナ禍は危機ではなく利益を稼ぐチャンスと映っているのだろう。
 確実に言えるのは、この資金を有効に使えば新産業と雇用が生まれ、それが賃金上昇と消費の復活につながる可能性があるということだ。危機はチャンスでもあるのだ。
 「日本人はバイタリティーがある」。日銀総裁だった三重野康氏(故人)から何度も聞いた言葉だ。今こそ官民が知恵を総結集して新たな経済循環の波を起こしてほしい。その波頭の先に、満席の中でてんてこ舞いする店主の姿が見える。       (富田光)

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