核施設いまも過剰集中 背景に少数派、貧困地域への差別<忘れられた声~世界初の核実験から75年 ㊥>

2020年7月18日 06時00分

中間貯蔵施設の建設に反対するジーン・ハーボーさん。「核のごみ」が貨物列車で運び込まれるのを心配する


◆核のごみ処分場、23年にも稼働

 ピーカンナッツ農場や牧場が広がる米南西部ニューメキシコ州カールズバッド。ゆっくり走る貨物列車を裏庭の向こうに眺め、元牧師ジーン・ハーボーさん(83)が言う。「この2年で2回、横転事故を見た。危険は現実問題だ」。心配を募らせるのは、放射能の強い「核のごみ」が運ばれてこようとしているからだ。
 線路が延びる東40キロ先の砂漠地帯に、全米の原子力発電所から出た使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物を集める「中間貯蔵施設」を造る計画がある。米原子力規制委員会(NRC)が審査中で、早ければ2023年にも稼働する。
 経済や雇用への効果を見込む地元自治体が後押しするが、ルハングリシャム州知事(民主党)は環境や経済面も含めて「重大で許容できないリスクを州民に与える」と反対だ。
 米国では日本同様、こうした危険度の高い核のごみの最終処分先が決まっておらず、連邦政府にとって積年の課題だ。州民からは、なし崩し的に最終処分に至る不安や、州内に原発がないため「なぜ州外のごみを…」との不満も漏れる。

◆繰り返されてきた事故

 実際、75年前に世界初の核実験「トリニティ実験」の舞台となった州内には、戦後も連邦政府の核関連事業が集中。核兵器施設は全米11カ所のうち3カ所が州内にあり、原爆開発の拠点になったロスアラモス国立研究所は年20億ドル(2100億円)近い核関連予算を担う。原発や核兵器の原料になるウラン採掘に伴う汚染も含め、放射性物質の事故や問題が繰り返されてきた。核との共存という意味で、実験は序章の一部にすぎなかったわけだ。

◆ヒスパニック比率、全米最多の州

 「単に土地が余っていたからではない。従順な後発地域と見なされたからだ」。州政府で環境政策を担当した元職員で核軍縮問題に取り組むグレッグ・メロさん(70)は、人種や経済的な背景を挙げる。州人口はヒスパニック(中南米系)の割合が48%と全米50州で最も高く、先住民族も多い。世帯収入の中央値は2番目に低く、裕福でもない。
 国連人権理事会の特別報告者として有害物質・廃棄物の汚染問題を担当するバスクト・トゥンジャク弁護士(41)は差別の構図を指摘する。「特定地域が不釣り合いな核のリスクを背負うのは、地理的な理由だけではない」。ただ、それは米国固有の問題でもない。「核施設を『わが家の裏にはごめん』と人種・民族的な少数派や低収入の地域に押しつけるのは、世界的なことだ」と述べ、日本の原発政策も一例に挙げた。
 中間貯蔵施設に反対するハーボーさんは、「愛国者の義務だ」と賛成派から苦言を呈される。「そう言われると誰もが言い返しづらくなる」と苦笑いしつつ、切り返す。「少数派を利用するようなやり方は長続きしないし、この州は『義務』を果たしてきた。何も借りはない」
 (カールズバッドで、赤川肇、写真も)

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