戦後日本政治の総括 田原総一朗著

2020年7月19日 07時00分

◆実体験に基づく自伝的戦後史
[評]小西徳應(明治大教授)

 終戦から七十五年、古川柳の「売り家と唐様で書く三代目」が思い出される。苦労知らずの三代目が破産して、金を払って習った書体で売り家と書いていると詠んだものだ。一代が二十五〜三十年なら今年は三代目の後半に当たる。
 いわば時代の変わり目に出された本書は、雑誌『世界』での「我が総括」と題した連載をまとめたもので、国民学校五年生の時に終戦を迎えた著者の自伝的戦後史である。六〇年安保闘争に参加した時は条約内容を知らなかったと記しているように、リアルな体験と直接的な見聞、さらに同時代人の「証言」に基づいて戦後政治を描いている。
 広く知られているように著者は、テレビ番組で出演者に切り込み、「ホンネ」を語らせてきた。実はインタビューや綿密な調査で裏付けた著作も多数ある。中でも、『日本の政治』ではロッキード事件における田中角栄の無罪を、『正義の罠(わな)』でリクルート事件が検察による捏造(ねつぞう)だと論じたことは、その判断の当否は別として興味深い。
 本書でも一部が繰り返されているが、それ以上に田中、竹下登、中曽根康弘、小沢一郎ら多くの政治家に対する直接インタビューは、その時々の政局を理解する上で示唆に富む。また、政権交代に関する各々(おのおの)のエピソードも興味深い。著者が政治の狂言回しの役割を何度も果たしている。 宮沢喜一内閣が「嘘(うそ)つき解散」に至った発端は、著者の番組での宮沢発言だった。別の番組で、参院選の一週間前に橋本龍太郎首相が中継で出演したが、その際の発言をマスコミが「迷走」と追い詰めたことで自民党が惨敗した。さらに、小泉純一郎が総裁選出馬時に、著者に協力依頼したことなどである。加えて、北朝鮮拉致問題に関する新事実入手の経緯、西松事件は小沢つぶしが目的だとの指摘などもある。
 一連の事実描写や評価を読むことで、日米関係を中心に構築されてきた戦後体制が変革期の真っただ中にあり、三代目の世代がいま一歩踏み出す責務を持つと感じさせるものとなっている。
(岩波書店・2090円)>
1934年生まれ。ジャーナリスト。著書『塀の上を走れ−田原総一朗自伝』など。

◆もう1冊

石川真澄、山口二郎著『戦後政治史 第三版』(岩波新書)

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