中東・アフリカ紛争地に新型コロナまん延 実態把握できず、感染者数隠しも

2020年7月19日 10時34分

イエメン首都サヌアで新型コロナ感染者の治療に当たる医師=国境なき医師団提供


 新型コロナウイルスの脅威が、中東とアフリカの紛争地や最貧国を襲っている。脆弱ぜいじゃくな医療態勢や政府の機能不全で感染の実態が把握されないほか、実際の死者数が隠されるケースもあり人道的な懸念が高まっている。内戦下にあるイエメンの医師は「世界に知られぬまま亡くなる『沈黙の死』が増えている」と訴える。(カイロ支局・奥田哲平)

 ◆具合が悪くても食べるために働く

 「病床は新型コロナの患者で埋まり、PCR検査も十分できない。感染症状があっても自宅にいるほかなく、その後家族全員にうつり、病院に来たときには手遅れですぐ死を迎える」。イエメンの首都サヌアの病院で働く男性医師(30)が電話取材に答えた。
 中南部タイズの医師は「医薬品を購入する金が無い。患者には闇市場から自費で買うよう頼んでいる」と明かす。100床に対して人工呼吸器は8台しかない上に「供給する酸素が足りない」という。
 2015年から内戦が続くイエメンは医療機関の半数が機能を停止。昨夏からコレラの流行が再燃した中で新型コロナが直撃し、「世界最悪の人道危機」(国連)を一段と悪化させている。サヌアで働く女性医師は「具合が悪くても食べるために働かざるを得ず、密集する市場などに行って感染を広げる悪循環だ」と嘆く。

 ◆実態を反映しない政府の発表

 イエメンの医師たちは、いずれも匿名を条件に取材に応じた。感染状況を報道機関に話すのは禁じられ、見つかれば拘束される。それでも窮状を訴えたのは、サヌアや西部を実効支配する反政府武装勢力フーシ派が感染状況を公表していないからだ。
 首都で専用病床を設置して治療に当たる「国境なき医師団」(MSF)は「検査データを入手できる立場にない。毎日多くの肺炎症状の患者を受け入れているのは確かだ」という。女性医師は「首都だけで新規感染者は少なくとも1日500人以上に上る」とみる。
 「政府発表は実態を反映していない」という声は、アフリカ北東部スーダンも同じだ。西部ダルフール地方は03年以降の紛争で30万人が死亡。いまも難民キャンプが残り、慢性的な貧困と食料不足に悩む。
 PCR検査できるのは人口900万人のダルフール地方5州の中で1カ所のみ。北部エル・ファーシルの医師モハメド・アブドラさん(30)は「結果が出るのに1週間かかり、毎日多くの人が『死因不明』で亡くなっている。この街だけで4月下旬以降で約850人に上る」と明かす。政府発表の死者はスーダン全土で668人(15日時点)にとどまる。

 ◆経済後退で資金拠出に消極的

 国際社会からの人道支援も、コロナ禍の影響で滞っている。国連人道問題調整室(OCHA)のスーダン事務所によると、職員は感染防止のため自宅勤務になり、現場での食料支給に遅れが生じている。
 国連児童基金(ユニセフ)は先月26日、イエメンでの事業資金が不足して「今後半年間で栄養不良の子どもが20%増えて240万人に達する」との報告書を公表。人道支援には4億6100万ドル(490億円)が必要だが、これまで得られたのは4割弱にとどまる。
 経済後退に見舞われる各国が、資金拠出に後ろ向きになっているとみられる。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「最大の脅威はウイルスそのものではなく、国際的な連帯や指導力の欠如だ」と指摘している。

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