<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (15)画期的な選考会配信の楽しみ方

2020年7月20日 07時38分

「第3回ゲンロンひらめき☆マンガ大賞選考会」の一場面。5時間にわたる長丁場が、ネット配信で生中継された=ユーチューブから

 コロナ暮らしも長く続くと、いろんな感覚が変わる。リモートや配信で他者と出会うことに慣れた。
 漫画の新人賞の選考も、これはコロナの広まる以前からライブ配信で行われていた。「ゲンロンひらめき☆マンガ大賞」がそれだ。評論家の東浩紀氏の立ち上げた株式会社ゲンロンが運営するマンガスクールの授業の一環で、最終課題を「マンガ大賞」と呼び、僕は昨年よりその審査員を務めている(この連載の題字は、そのときの大賞受賞者によるものだ)。この選考会は全世界にネット配信で生中継される。六月に開催された第三回は、五時間にわたる長丁場がまるまる配信された。
 候補作はスクールのサイトに全作品が掲載されている。視聴者はそれらを読み込んでおくことで、審査自体をさらに楽しむことができる。誰かを応援したり、審査員の言葉にリアルタイムでコメントを送ったり。
 画期的なのは、候補作の完成前の下書き、いわゆる「ネーム」も公開されていること。一年かけての授業でもあるから当然、生徒たちの創作には「過程」がある。そこまで公開しての審査だ。候補者も審査会場にいて(もちろん今回「密」は避けて)、作品の意図を直(じか)に聞けるのもスリリング。そんな「選考会」は他にない!
 審査員の一人、漫画家の武富健治氏は一年通して全作家の全課題をみてきているので、最終候補作への批評もより奥深く厳しい言葉が並ぶ。「ネームの方がよかった」というとき、配信をみている人もさっと閲覧して比較できる、甚だ「授業的」な審査だともいえるし、スクール自体が「漫画」について考えを深める場にもなっている。
 僕は読者代表で、年間を通しての創作はみていない立場での批評を任されたが、しばしば生徒のように武富さんや他の委員の評に聞き入ってしまったし、感動さえした。

マルチ商法で人生が充実しているはずが、ケガだらけの「先輩」。不思議なリアリティを感じさせる=kubota『蔓延性フラットライナーズ』から

 今年の大賞受賞作の一つkubota作『蔓延(まんえん)性フラットライナーズ』は、マルチ商法にハマった友人の勧誘に困惑しながらも付き合い続ける様を描く。
 マルチ商法に勧誘される場面を漫画の中でみたことは何度かあるが、ここまで付き合いのいい主人公は初めてみた。マルチで人生は充実するという「先輩」が、会うたびになぜかあちこちケガしている。不思議なリアリティがある。充実している(はずの)友人が主人公に涙を流す山場(やまば)も斬新だった。
 最終候補作でなかったのに個人賞に推した拝島ハイジ作『おとなげ』は、女生徒に好かれる女教師の屈託をサラリとした絵で描いた。廊下を走る生徒に「走るならせめて前向く!」と呼び掛けるなど、これも細部のリアリティが非凡。
 漫画家志望の人に限らず漫画好きには是非(ぜひ)「流し見」でよいので配信をみてほしい(まだ公開されてます)。
 今年はコロナの中、配信ライブをみる敷居も下がった。だがゲンロンには配信の実績があり固定ファンがいるからか、いちげんさんに不親切な「番組」になってしまったのは残念だ。
 メール審査員の人たちを苗字(みょうじ)しか紹介しなかったり、メールのコメントを読み上げた後で、会場にいるその人から直にコメントをもらうなど無駄も多い。
 「番組」化することで、来年はもっと盛り上がると思うし、意義もさらに増すだろう。
 (ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)

◆マンガ教室の受講生募集中

 「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」は第4期の受講生を募集中(7月末締め切り)。詳細は公式サイト=https://school.genron.co.jp/manga/=を参照
 *次回は8月24日掲載。

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