「一斉休校」首相決断の舞台裏 官邸は文科省の代案を突っぱねた

2020年7月21日 06時00分
<検証・コロナ対策4>
 新型コロナウイルスへの対応で、学校の臨時休業は都道府県などが要請する。政府の対策本部が基本方針をそう定めた2日後の2月27日。文部科学次官の藤原誠(62)は首相官邸に呼び出された。

新型コロナウイルス感染症対策本部会合で、全国の小中高校や特別支援学校を臨時休校にするよう要請すると表明した安倍首相=2月27日午後、首相官邸

 「一斉休校要請の検討を」。対策本部の本部長で首相の安倍晋三(65)から、驚くような内容を告げられる。文科省は2日前、休校の判断は自治体に委ねると通知したばかりだった。
 一斉休校を避けたい藤原は、文科相の萩生田光一(56)と再び官邸を訪問。「春休みの前倒しで」と代案を示すと、「春休みは学校ごとにばらつきがあるので混乱する」と官邸側の出席者に突っぱねられた。
 「親への補償は」「給食業者への対応は」。萩生田らは課題を一つ一つ挙げ、翻意を促した。それでも安倍の決意は固かった。「批判があるのは分かるが私の責任でやる。政治判断だ」
 安倍がこの日の対策本部で発表するまで4時間しかない。萩生田らは文科省に戻るとすぐに対策会議を開いた。「社会的な影響が大きすぎる。大変なことになる」。会議で官邸の方針を聞いた担当者の1人はそう思った。
 法的な根拠がない官邸主導の一斉休校要請は、政府専門家会議にも相談がなかった。後に、その弊害が指摘されるようになる。

◆広がった戸惑い 専門家会議から「ダメージが大きい」の声も

 「首相、全国の小中高校に3月2日から春休みまでの臨時休校を要請」
 東京都内に住む会社員の平田小百合(40)は2月27日午後7時ごろ、帰宅途中にスマートフォンでこのニュースを見て目を疑った。小学3年生と保育園児を抱え、夫と共働き。3月2日は抜けられない会議がある。「子どもたちをどうすれば…」と思った。
 そのころ、都教育庁に文部科学省からファクスが届く。学校からの問い合わせに対応しようにも、文面は「本日中に通知を発出する予定」とあるだけ。都の担当課長は「何に基づいた要請か分からない。強制力があるのか、罰則があるのか」と困惑した。結局、都に通知が届いたのは翌朝だった。
 政府専門家会議にも相談はなかった。3日前に「1~2週間が急速な感染拡大が進むかの瀬戸際」と見解を示したが、休校には触れていない。感染者のいない県もある。「稚内から沖縄まで全部休みとは」「子どもの感染者はまれ。休校の効果と影響を比べるとダメージが大きい」。メンバーからそんな声が出た。

◆「官邸の独走だ」自民ベテラン議員 説明なき首相会見

 「先手先手でやるべきだと判断した」。2月28日の衆院予算委員会で首相の安倍晋三(65)は強調した。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染で、海外メディアは日本政府の感染症対策が不十分だと批判。東京五輪開催も不安視され始めていた。自民のベテラン議員は「官邸の独走だ」と苦々しげに話した。
 この日の朝、娘が通う小学校から平田にメールが届く。「まだ教育委員会の決定が出ていないので、学校には問い合わせをしないでください」。金曜日なのに、月曜日が休校かどうかが分からないことに平田は困惑。「月曜から休校」と連絡が来たのは午後4時だった。学童保育は開いていたため、3月2日の会議出席にはめどをつけられた。
 安倍が記者会見したのは翌29日。「効果のある対策なの?」「給食や学童保育はどうなるの?」。平田が抱いていた疑問に明確な説明はなく、35分で打ち切られた。
 感染者ゼロの岩手県でも、公立の全531校が休校した。知事の達増拓也(56)は3月3日、休校要請について「現場で具体的な調整のやり方を決めた上で発表すればよかった」と唐突さに疑念を示した。

◆「子どもの心身を脅かしている」小児学会が警鐘

 日本小児科学会の委員会は5月、医学的知見から報告書をまとめる。子どもの感染例は少なく、重症化はまれだと指摘。学校などで子どもが感染源となったクラスター(感染者集団)の報告も国内外でほとんどないとして、「学校などの閉鎖は流行阻止効果に乏しい」と分析する。さらに、閉鎖は教育の機会を奪い、虐待のリスクが増す危惧があるため、「子どもの心身を脅かしている」と弊害の大きさを警告している。 (敬称略)

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