中止一転開催「車いすの部」ドタバタ テニス全米オープンの波紋

2020年7月24日 06時00分

<超える・障害者スポーツの今>

 テニスの4大大会(グランドスラム)の一つ、全米オープンが8月末に開幕する。新型コロナウイルス感染収束が見通せない中、主催の全米テニス協会は6月、無観客開催を決める一方で車いすの部中止を発表した。それに一部の車いす選手が反発し、国際パラリンピック委員会(IPC)も「失望した」と再考を要求。慌てた協会は選手らと協議し、数日後、一転して車いすの部開催も決定した。

昨年の全米オープンテニス車いすの部男子ダブルス決勝でプレーする国枝慎吾選手(左)=ニューヨークで(共同)

◆事前に説明なく

 「ひどい差別」。選手の中で強く協会を批判したのは、上半身にも障害があるクアードクラスの世界ランキング1位、ディラン・アルコット選手(オーストラリア)。ツイッターで「障害があるからといって私を『リスクが高い人』と呼ばないでほしい」と訴えた。
 協会は中止理由を明かさず、後日「選手と直接話すべきだった」と釈明。予選をなくし、ジュニアの部も中止していることから、差別意識というよりは感染予防で試合数を減らしたかっただけとみられる。
 車いす男子の世界ランキング1位、国枝慎吾選手(ユニクロ)は「僕自身は差別とは思っていないが、事前に情報を伝えておけば、こういうことはなかったんじゃないか」と話す。
 車いすテニスツアーで現在の4大大会(全豪、全仏、ウィンブルドン、全米)すべてが「グランドスラム」となったのは2009年から。それ以前は、今は格下になっている車いすだけの別の4つの大会が、車いすテニスの4大大会だった。参加人数は多く、「選手も『勝った』という気持ちは強かった」と、車いすテニスに詳しいライター酒井朋子さんは説明する。
 一方、現在のグランドスラムの車いすの部はランキング上位7人と推薦枠の計8人、クアードでは計4人しか出場できず、一般の部の「おまけ」のようなイメージは拭えない。

◆「やるならちゃんとやって」

 クアードの世界ランク5位、菅野浩二選手(リクルート)は「グランドスラムは選手の憧れだが、今はトップ選手だけのお祭り」と感じる。昨年全仏とウィンブルドンに初出場し、観戦客の声援など、車いすだけの大会にはない雰囲気がうれしかった。だからこそ、予選も行うなど「やるならちゃんとやって」と望む。
 酒井さんによると、障害者スポーツだからという「差別」的な意識は、実はテニスでは以前から薄く、「国際テニス連盟は早くから車いすツアーも管轄し『テニスの中の車いす』として一緒にやりたい気持ちは強い」という。ただ4大大会は主催者の仕切りが強く、意識に差はある。仮に、4大大会で最も早く車いすの部を導入した全豪で中止を検討するなら、「まず選手に意見を聞くのでは」と酒井さんはみている。

つぶや記 テニスでは、車いすと一般の選手がダブルスを組む「ニューミックス」が以前から行われている。国枝慎吾選手も6月下旬、男子トップ選手とのエキシビションマッチでプレーし、豪快なボレーを打ち込んだ。障害を殊更に意識しなくても関われることは、実は多いはず。差別や偏見、社会のあちこちにある不便さ、己の限界―。障害者スポーツの世界で、そんな「バリアー」や垣根を超越しようとする人たちの今を伝えます。 (神谷円香)

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