<お道具箱 万華鏡>歌舞伎の櫛、かんざし 眼鏡が結んだ縁

2020年7月24日 07時34分

眼鏡展示会での「長井」ブース。高橋さん(写真奥)がお礼としてかつらを結って届けた=2015年10月

 芸能の道具を復元していると、思いがけない人と出会うことがある。歌舞伎の櫛(くし)、かんざしのときも、びっくりな展開だった。そもそもは歌舞伎床山(とこやま)の高橋敏夫さん(故人)のこのひと言から始まった。
 「これも困ってます…」
 高橋さんは、頼み上手な人だった。絞り染めの髪飾り「鹿(か)の子」の復元がうまくいった後、するっと相談してきた。見せてくれたのは、べっこう色の大きな櫛とかんざし。「助六」の揚巻(あげまき)など、花魁(おいらん)の髪には欠かせない道具だ。
 なにしろサイズが大きい。ものによっては、役者の家紋が入ったりもする。職人にあつらえてもらっていたが辞めてしまったというのだ。そんなこんなで、二〇一〇年六月、新たな作り手探しの手伝いを始めた。
 これが簡単そうにみえて難航した。作る技術はそう難しくない。壁になったのは採算性だ。高橋さんが欲しい数は多くても数十本。しかも、価格はそれほど高くない。作る側にすれば儲(もう)からない仕事なのだ。「うちではねえ…」という言葉を何度聞いたか。

「長井」で打ち合わせる長井正雄社長(当時、現会長)(左)と鯖江市役所の渡辺賢さん=2013年5月

 ビジネスに疎い筆者はそこに気づかず、ずいぶんさまよった。苦し紛れに、まだ出たてのクラウドファンディングにも挑戦したのだが、これが解決への扉を開いてくれた。鍵となったのは、ある支援者の助言。「眼鏡づくりが盛んな福井県鯖江市に相談してみては」というのだ。
 半信半疑で鯖江市役所に連絡してみた。そこからがすごかった。市役所の人が早速適任の会社を見つけて引き合わせてくれた。眼鏡のフレームを作る「長井」である。何度も鯖江に飛び、会合を重ねた。そして立派な櫛とかんざしが完成した。苦節三年。喜びもひとしおだった。次回は、草のにおいのする復元のお話。(伝統芸能の道具ラボ主宰)

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