自衛隊の災害派遣が増加 豪雨・台風・コロナ対応… 訓練など「本業」を圧迫

2020年7月25日 05時50分
 自衛隊の災害派遣が近年増加している。本年度はすでに今月、九州地方を中心とする豪雨災害に延べ約20万人以上が出動したほか、新型コロナウイルスの感染拡大防止にも対応するなど多様化も進む。災害が多発した平成期、被災者を助ける自衛隊の活動は、国民との距離を縮めたが、訓練など「本業」が圧迫されるジレンマに陥っている。(荘加卓嗣)

九州豪雨で被災した熊本県津奈木町で泥だらけになりながら、行方不明者の手がかりを捜す自衛隊員=7日

◆2年連続で延べ100万人超

 昨年度の災害派遣は449件で延べ約106万人が出動した。100万人超えは記録のある1977年度以降4度目で2018年度に続き2年連続だ。
 昨年9月の台風15号の際は千葉県内などで発生した大規模停電の復旧のため、倒木除去などに従事し、10月の19号の際は陸海空自で統合任務部隊を編成。延べ約88万人が人命救助や生活支援に当たった。
 陸自にとって台風シーズンは訓練の多い時期でもある。災害派遣に追われ、中隊(約150人)規模以上で行う予定だった訓練約3000件のうち300件が中止になったほか、訓練規模を縮小したケースもあった。

◆いつまで滞在…自治体は長期を希望

 自衛隊法で、災害派遣は「防衛任務に支障を生じない限度」で行うよう位置付けられている。要請派遣と自主派遣があり、要請派遣は都道府県知事などが防衛省に要請する。
 発生から時間がたち、人命救助から生活支援に活動ニーズが変わると、長くとどまってほしい自治体と自衛隊との認識のズレが生じるのが悩みの種。湯浅悟郎・陸上幕僚長は「自治体にバトンタッチする枠組みをつくったり、認識を統一したりすることが必要」とした上で「陸自でなければできないことは当然やるが、平和と独立を守る集団なので、その能力を落とすわけにはいかない」と話す。
 このため、政府は防災基本計画を修正し、撤収の時期は自治体の要請を待たず双方で調整して決めることにした。
 災害派遣は自然災害以外にも対象が広がっている。豚熱(CSF)対応では昨年度、延べ約1万1000人が殺処分などに当たった。作業内容から隊員の心理的な負担が大きく、「どうしてわれわれがやるのか」(佐官)との本音も漏れる。
 新型コロナウイルス感染症対応では、中国からの帰国者の宿泊施設やダイヤモンド・プリンセス号での医療支援、市中感染防止のため自治体への教育支援などもしている。

◆災害で自衛隊に期待79%

 旧軍の記憶から、長く国民の間にあった自衛隊へのアレルギーを和らげた実績として災害派遣を挙げる隊員は多い。事実、18年に内閣府が行った世論調査で、自衛隊に期待する役割として災害派遣を挙げた人は79.2%で、国の安全の確保を挙げた60.9%を上回る。
 政治と軍事の関係に詳しい纐纈こうけつ厚・明治大特任教授(政治学)は「これからも自衛隊は軍事面以上に、ソフト面での貢献に対する期待への対応に苦慮するだろう」と指摘。「今後の安全保障は、国家間の紛争処理よりも自然災害やウイルス感染など国境をまたぐ脅威への対応が問われるようになる。パラダイム転換する時期に来ているのではないか」と分析する。

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