重傷を負った男性が踏み出す自立への一歩 相模原殺傷から4年

2020年7月25日 05時50分

アパートで介助者の大坪さん(左)と昼食をとる尾野一矢さん=17日、神奈川県座間市で

 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され、26人が重軽傷を負った事件から26日で4年を迎える。植松さとし死刑囚(30)に「意思疎通できない」と決めつけられて襲われ、重傷を負った尾野一矢さん(47)は、自立に向けてこの夏にも1人暮らしを始める予定だ。刑事裁判が終わり、事件の風化への懸念が高まるが、父親の剛志たかしさん(76)は「施設で暮らす多くの重度障害者の生活について、考えるきっかけになれば」と願う。(土屋晴康)

◆支援を受けながら1人暮らし始める

 「カレーパン食べる」。17日午後、神奈川県座間市のアパートで、一矢さんはそう言い、テーブルの上の好物に手を伸ばした。介護福祉士の大坪寧樹やすきさん(52)と近くのスーパーに行き、自ら選んで買ったパン。見守る大坪さんは「部屋にも慣れて、自分のペースで過ごしている感じがします」とほほ笑んだ。
 自閉症と重い知的障害のある一矢さんは、国の支援制度を使い24時間、訪問介護を受け、1人暮らしするつもりだ。部屋に慣れるために大坪さんと週1回ほど、今いる横浜市港南区の施設から座間市内のアパートに通い、食事や風呂など日常生活を体験して問題点がないか確認している。

◆父は思う「自由な生活が本当の幸せでは」

 一矢さんは23歳で津久井やまゆり園に入所し、20年以上にわたって施設で暮らしてきた。なじみの職員や入所者もいる。一矢さんが1人暮らしできるとは剛志さんは思っておらず、2021年度に完成予定の新施設に引き続き、預けるつもりでいた。
 しかし、介護を受けながら1人暮らしをする重度障害者に出会い、自分の意思で街を歩き、食事をする、その生き生きとした表情に驚いた。施設の集団生活では食べる物や寝る時間、すべてが決められている。介護者の支援を受けながら、自由に生活する。「平凡だけど、それが本当の幸せなんじゃないか」と思うようになった。

◆事件後に感じた息子の変化

 事件後、一矢さんに感じた変化も後押しになった。被害者家族の多くが匿名を望む中、剛志さんは実名で取材に応じてきた。家族と施設職員だけの人間関係だった一矢さんのもとに、報道機関の記者や福祉関係者らが次々と訪れた。自閉症で対人関係を築くのが苦手だったが、最近では初対面の人にも自ら近づいていくなど打ち解けた様子を見せる。母親のチキ子さん(78)は「精神的に落ち着いて、大人になってきた気がする」と目を細める。
 今後も施設からアパートに通う生活を続け、介護者らの許可が出れば、1人暮らしが始まる。剛志さんは「事件がなければ、やまゆり園が一矢の“ついのすみか”だった。施設を出て一矢が傷つくことがあるかもしれない。でも介護者と一緒に乗り越えて、自立してくれたら、年老いた私たち夫婦も安心できる」と見守っている。

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