不要不急の本あります 神保町に書店「無用之用」オープン

2020年7月25日 11時03分

店長の片山淳之介さん。自らの読書体験については「鋭い風刺としゃれが同居する伊丹十三のエッセイに影響を受けた」と話す=20日、千代田区神田神保町で(浅田晃弘撮影)

 古書店の休業が求められて一時シャッター街となった緊急事態宣言下の東京・神保町で、ひっそりと開店準備を進めた。6月19日にオープンした書店の名前は「無用之用」。不要不急の行動が戒められる時代、あえて「すぐには役立たない本」をそろえたという。(浅田晃弘)
 すずらん通りの雑居ビル3階。エレベーターの扉が開くと、光りが差し込む明るい店内に、木箱が並んでいるのが見えた。一つ一つが書棚になっている。
 「探さずとも遊びは近くにあります」「私たちとは、何なのか」。つけられたタイトルはポエムのようだ。作者や出版社の名前、あるいは哲学、文学、歴史、ビジネスなどのジャンル別の分類ではない。

リンゴ箱を活用した書棚。さまざまなジャンルの本が同居する

 棚のタイトルだけ見ていてもどんな本があるのかは分からない。例えば「トヨタセンチュリーの作り方」。工学書の類いは一切ない。評伝「田中角栄の時代」(山本七平)、小説「東京會舘かいかんとわたし」(辻村深月)などから、政財界人の公用車として使われ社交界を彩った高級車の活躍の背景に興味を誘う仕掛けだ。
 「分からないことがあればネットですぐに調べられる世の中だから『自分で探す』ことの楽しさを伝えようと思った」。店長の片山淳之介さん(40 )は言う。
 「青森りんご」を専門に販売する会社で働き、自ら出店を提案した神保町のリンゴ販売店で店長を任された。日本一の古書店街、大学や出版社が集まる土地柄から「話が面白い」客が多かった。その中に、NPO法人「イシュープラスデザイン」代表の筧裕介さんがいた。神保町に事務所を置き、地域づくりや、医療や介護などの社会問題の解決のため、市民を巻き込んだプロジェクトを進めている人。意気投合して「一緒に新しい書店をつくろう」となった。
 目指したのは「知識の交差点」。多様な人が意見を交換し合うことで新しいアイデアが生まれる場所だ。リンゴの木箱を利用した書棚は、片山さんだけでなく客の選書もある。古書、新刊、織り交ぜ、ときには別の客の意見を聞いて「こっちの方がいいかな」となれば入れ替えることもある。
 「無用之用」とは、古代中国の哲学者・老子の言葉で「一見、無用に思えるものにこそ本質的な価値がある」ということ。効率や生産性ばかりが言われる現代の社会を見つめ直すため、以前から店名に考えていたがコロナの流行で「一層、重要なコンセプトになった」と言う。「心の豊かさとはどういうことか。一呼吸置いて考えてみたい」
 営業時間は正午~午後7時。不定休。

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