<7月の窓>娘の思い、胸ポケットに大往生

2020年7月26日 06時00分
 「次は10日後に来るね。もう少しで会えるから」。そんな手紙を、土屋佐栄子さん(66)=神奈川県厚木市=は施設に入居中の父、杉栄市さんへの差し入れに添えて渡した。新型コロナウイルスの影響で面会できない日々が続いたまま、父は5月、99歳で亡くなった。長女の土屋さんは「亡くなる直前まで2カ月以上も会えなくなるとは思わなかった」と悔やむ。
 足腰が弱くなった父が施設に入ったのは昨年10月。長男(57)と2人暮らしだったが、長男が仕事でいない日中に転倒することが多くなった。土屋さんは「父は自宅にいたかったと思う」と気は進まなかったが、施設に入れることを決めた。
 施設からは3月、感染防止のため入居者との面会を控えるよう連絡があった。介護用品や父の好物の豆乳を持って月に3回ほど訪れ、玄関で職員に託した。体調が気掛かりだったが、耳の遠い父と電話はできず、手紙を添えた。
 面会を待ち望んでいた5月、父が施設で転倒して左足の大腿骨を骨折し、入院。コロナの影響で病室までは付き添えず、話らしい話もできなかった。翌朝、容体が急変した。
 施設に荷物を引き取りに行くと、所長から、父が手紙をいつも胸ポケットに入れていたと聞かされた。7通の手紙にはしわがあり、大事に持っていたことがうかがえた。「心が通い合っていたと思うと、ありがたかった」
 葬式で見た父の顔は、会えなかった2カ月の間に少しふっくらし、安らかに見えた。「本人は100歳まで生きたかったと思うけど、大往生だった」(井上真典)

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