朝刊小説「パンとサーカス」 東京新聞紙面で31日連載開始 島田雅彦さん寄稿

2020年7月27日 07時48分
 小説家島田雅彦さん(59)が執筆する朝刊連載小説「パンとサーカス」が、31日に始まります。連載開始を前に、今作へ懸ける思いを島田さんに寄稿してもらいました。
 タイトルの「パンとサーカス」は、古代ローマの詩人ユウェナリスが愚民化政策をあてこすったコトバに由来する。政治的関心を失った民衆には食糧(パン)と見世物(サーカス)を与え、盲目状態に置けば、支配は容易という考えだ。戦争、祭典、犯罪、天災、疫病、どれもがサーカスにあてはまる。支配者は権力保持のためなら、民衆の不安、興奮、恐怖を誘うあらゆるサーカスを政治利用する。
 日本はJ1とJ2に分断されている。J1は、この国を間接統治し、隷属させるアメリカ、その忠犬として自国民に犠牲を強いる政治家、彼らに取り入り、権勢を振るう官僚、税金を逃れ、富を独り占めする資産家、彼らの犯罪を隠蔽(いんぺい)し、市民を監視する法の番人らが、こぞって利権を貪(むさぼ)るインサイダーの天国である。
 J2は支配層のJ1に一方的に搾取されるアウトサイダーの地獄である。両者を隔てる壁は厚く高い。暴動が起きる気配はなく、J2の人間はもう少しマシな生活を求めて、自発的服従を続ける。水と自由はタダだと思っているこの国で、かつてないほどに政治の腐敗が進み、組織的な無法と無責任が極まっている。いつまでも無知なまま、支配者に騙(だま)されていると、水も自由も奪われ、生存を脅かされる。
 韓国も台湾も香港も帝国の圧力に抵抗し、不断の努力で自由を手放すまいとしてきた。日本では未(いま)だかつて一度も市民革命を実現できなかったが、もし市民が自らの手で自由と平等を勝ち取ったら、初めて本心から「日本すごい」と思えるに違いない。
 心折れるこの世界で孤立した者同士が出会うところから物語は始まる。凋落(ちょうらく)したヤクザの息子空也、その親友でCIA(米中央情報局)のエージェントになった寵児、空也の腹違いの妹マリア、弁護士、ジャーナリスト、刑事、政治家秘書になった女子四人組、怪しい人材派遣会社社長、組織から排除された内部告発者たち、懺悔(ざんげ)するフィクサー、ホームレスの元刑事…そんな怪しい面々が暗黙の共謀をして、実行するのは世直しか、テロリズムか? 武器もカネもない、地位も権力もない。エキスパートが綿密に計画した作戦を、義兵たちが志願し、実行する。J1側の支配層の弾圧は一層強まるが、叛逆(はんぎゃく)の連鎖は止まらない。独裁者も人である限り、必ず滅びる。今日、立ち上がり、明日、彼らを追い出せば、明後日には新しい国が出現する。
 すぐにバレる嘘(うそ)で固めた現実の政治は出来の悪いファンタジーに過ぎない。『パンとサーカス』は現実のディストピアを風刺しつつ、良心の革命の一部始終をあらゆる角度から描き出す。古典的名作『七人の侍』や『スパルタカス』のパッションを再現し、韓流ドラマの傑作に劣らないエンターテインメントを目指す。
 小説を書き続けて三十八年。表現者としての欲望は若い頃より膨らんでいる。小説は万能のジャンルで、反乱も革命も自在に起こすことができる。一年後、予想外のゴールに到達するまで私の暴走にどうかお付き合いください。

◆挿絵、6人交代で

ユニットのロゴマーク

 朝刊連載小説「パンとサーカス」の挿絵は、ユニット「コントラ・ムンディ」の画家六人が交代で担当します。
 コントラ・ムンディ ミヅマアートギャラリー(東京都新宿区)に所属する岡本瑛里、荻野夕奈、金子富之、熊澤未来子、水野里奈、山本竜基の画家6人でつくる。ユニット名は「パンとサーカス」の主人公たちがつくる秘密サークルの名称。ラテン語で「世界の敵」を意味する。
<しまだ・まさひこ> 小説家。1961年、東京都生まれ。法政大国際文化学部教授。東京外国語大ロシア語学科在学中の83年、「優しいサヨクのための嬉遊曲」でデビュー。2006年、『退廃姉妹』で伊藤整文学賞。20年、『君が異端だった頃』で読売文学賞。川崎市在住。

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