視覚障害のある男性、誤って転落か ホームドアのない阿佐ケ谷駅

2020年7月28日 06時00分

阿佐ケ谷駅ホームから誤って転落して死亡した吉本充伸さん(関係者のインスタグラムから)

 東京都杉並区のJR阿佐ケ谷駅で26日午後、視覚障害のある東京都小平市の自営業吉本充伸さん(51)がホームから線路に転落し、電車とホームの間に挟まれて死亡する事故があった。駅のカメラには吉本さんが足を踏み外す様子が写っており、警視庁杉並署は、ホームを歩行中に誤って転落したとみて調べている。(西川正志、井上真典、奥村圭吾)

◆点字ブロック付近歩いて足踏み外す


 署によると、26日午後2時45分ごろ、1番線ホームの点字ブロック付近を歩いていた吉本さんが足を踏み外して線路に転落。自力でホームによじ登ろうとしていたところ、進入してきた総武線三鷹行き普通電車とホームの間に挟まれ、6~7メートルほど引きずられたという。運転士は「非常ブレーキをかけたが、間に合わなかった」と話しているという。
 吉本さんは目の病気を患っており、障害者手帳を持っていた。現場からは吉本さんの白杖も見つかった。吉本さんはマッサージで生計を立てており、この日は高齢者にマッサージを施すボランティアのために同駅を利用していたという。
 JR東日本によると、同駅には点字ブロックや、線路に人が転落した場合に運転士や駅員に異常を知らせる非常停止ボタンは設置されているが、転落防止のホームドアは未設置だった。
 同社は2032年度までに東京圏の主要路線の全243駅にホームドアを設置する予定だが、現時点で設置されているのは51駅。阿佐ケ谷駅も32年度までの設置計画に入っているが、具体的な設置時期は決まっていないという。
◆「ボディチューナー」として活躍

阿佐ケ谷駅ホームから誤って転落して死亡した吉本充伸さん=関係者のインスタグラムから

 亡くなった吉本さんは、マッサージの高い技術を武器に「ボディチューナー」と称してフリーで活動し、「ヨッシー」の愛称で親しまれていた。俳優やスポーツ選手らの依頼を受けて施術するほか、ボランティアでシングルマザーや妊婦向けに無料マッサージ会なども開いていたという。
 吉本さんのフェイスブックなどによると、和歌山市出身で筑波大付属視覚特別支援学校を卒業。フリーとして働く傍ら、2017年7月から約1年9カ月間、骨格調整などを行う東京・原宿の店舗でも働き、店では「盲目の天才セラピスト」と紹介されていた。
 かつて同じ系列店で勤務した30代男性は「穏やかな口調で、お客さまの体の悩みを優しく受け止めていた」と振り返る。2年間施術を教えた日本美容矯正士協会の清水六観理事長は「目が見えないハンディを克服して余りある人でした」と死を悼んだ。

◆「コロナ禍でも声かけて」障害者団体が要望

市原寛一理事

 転落事故が起きたJR阿佐ケ谷駅の現場に27日午後、東京都盲人福祉協会(都盲協)の市原寛一理事(53)が駆け付けた。現場に何か問題がなかったかどうか確認するためだ。
 亡くなった吉本さんは、ホームの5両目付近と階段の間にある通路のあたりで転落した。市原さんによると、線状の突起の付いたホームの内側を知らせる「内方線付きブロック」と線路側にあるゴム状の滑り止めを勘違いして、転落した可能性があるという。「白杖を使って、内方線を確認するが、滑り止めと見分けがつきにくい」と話した。
 ホームと階段の間の通路の幅1メートル87センチについては「狭すぎるというわけではない」との見方を示した。

吉本さんが転落したJR阿佐ケ谷駅の1番線ホーム=27日、東京都杉並区で

 事故の原因ははっきりしないが、市原さんには気になることがある。「新型コロナウイルス感染症の影響で、電車を利用する際、声を掛けてくれる人がほぼゼロになった」と語る。コロナの前は、外出した際、5回に3回は、「大丈夫ですか」と話し掛けられることもあったという。
 市原さんは「ソーシャルディスタンスを保つためかもしれないが、声掛けがあると全然違う。転落の直接的な原因ではないかもしれないが、安全に駅も利用できる。視覚障害者の人を見かけたら、気軽に声をかけてほしい」と訴える。
 都盲協は29日、鉄道会社に対し構内放送で視覚障害者への声掛けを乗客に呼び掛けるよう求める要望書を都に手渡す予定だ。

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