「真実が証明された」「介護現場の不安を払しょく」 逆転無罪に准看護師が涙 

2020年7月29日 06時00分
 特別養護老人ホームの入所者の死亡事故を巡り、業務上過失致死罪に問われた職員に対し、東京高裁は一審の有罪判決を破棄し、逆転無罪を導いた。職員個人に刑事罰が科されれば、介護現場の萎縮を招くと懸念が広がる中での無罪判決に、弁護団は「不安は払拭されるだろう」と喜ぶ。識者は「事故の根本的な解決には、人手不足の解消が不可欠だ」と指摘する。(小野沢健太、山田雄之)

◆「検察は受け入れて」

控訴審判決後、報告集会で涙を拭う山口けさえさん=東京都千代田区で

 「原判決を破棄する。被告人は無罪」。裁判長が判決主文を読み上げると、傍聴席からは「えっ」と驚きの声が上がった。被告人席の准看護師山口けさえさん(60)は閉廷後、傍聴席や弁護人らに何度も頭を下げた。
 長野県安曇野市の「あずみの里」で2013年、入所者の女性=当時(85)=にドーナツを食べさせて窒息死させたとして刑事責任を問われた山口さん。判決後、東京都内で記者会見し「真実が証明された。6年半という長い時間を支えていただき、ありがとうございました。検察は真実を受け入れてほしい」と支援者らに涙ながらに感謝した。
 会見に同席した弁護団長の木嶋日出夫弁護士は、「罰金20万円とした一審長野地裁松本支部判決後、介護現場には『少しでも危険があれば流動食しか与えない』という空気も広がっていた。控訴審判決はその流れに歯止めをかけてくれるだろう」と評価。上野格弁護士は「そもそも起訴されることがあり得ない事案だ」と語気を強めた。

◆署名73万筆

 一、二審を通じ、無罪判決を求める署名は約73万筆に上った。木嶋弁護士は「検察は真摯に受け止め、速やかに上告しない判断をするべきだ」と求めた。
 東京高検の久木元伸・次席検事は判決後、「判決内容を十分に検討し、適切に対処したい」とのコメントを出している。
 一方、東京・霞が関の司法記者クラブでは、東京保険医協会の佐藤一樹理事が会見した。判決が介護職員間の引き継ぎ資料まで看護師が確認する義務はないと指摘した点について、「臨床をよく理解している」と評価した

◆人手不足の問題は依然残る

 介護の問題に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「介護現場には一審判決後、利用者のニーズよりもリスクを負わないことを重視する消極的な姿勢が広がっていた。逆転無罪により、介護現場は利用者の満足感を意識した対応を取り戻すことができるのではないか」と期待。その上で「少人数の職員で多くの利用者をみている現状では、いつこのような事故が起きてもおかしくない。事故を防ぐには職員の数を増やす必要がある」と話す。
 法政大の長沼建一郎教授(社会法学)は「介護は常に危険と隣り合わせ。今回の事案で刑事責任を問われるのはあまりにも酷だ。介護現場の人手不足の解消は今後の課題だろう」と警鐘を鳴らした。

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