<検証 新型コロナ>(5)アラートで再び苦渋 川崎の飲食店主「正解どこに」

2020年7月29日 06時41分

「輪」の入り口に張り出された「感染防止対策取組書」

 「どうしよっか」
 川崎市川崎区でお好み焼き店「輪(りん)」を経営する中村ゆきさん(46)は今も、そんな言葉ばかりが口をつく。何かに追いかけられる夢も見た。
 新型コロナウイルスの感染が広がり、政府が四月七日、緊急事態宣言を発令すると、中村さんは翌八日に店を臨時休業した。「輪を経由して感染が拡大するのは避けたい。かといって、体力のない輪が、この困難から立ち直れるのか」。店のフェイスブックに苦渋をつづった。
 笑顔の輪が広がる場所でありたい−。そう願って、地元の川崎に開業したのは二〇一七年十月。地域につながりを育む姿勢が共感を呼んで、川崎市の表彰も受けた。「『子どものころ、ここに連れてきてもらったんだ』と言われる店にしたい。だから、ずっと…」
 臨時休業中、店を開けるかどうか、スタッフと何度も話し合った。休業から五日後、県の要請通りに午後八時までに短縮して営業を再開した。お好み焼きやもんじゃ焼きは、自分で焼いてもらうか、厨房(ちゅうぼう)で調理して提供するスタイルに。和気あいあいとした雰囲気が店の売りだったのに、できるだけ近づかないように接客するしかなかった。
 例年は家族連れでにぎわうゴールデンウイークも、「ステイホーム」と呼びかけられた。五月の売り上げは、前年同月の五分の一にまで激減。開業から一緒に店を切り盛りしてきた大事なスタッフが「やっていく自信がない」と泣いた。

メニュー表を消毒するお好み焼き「輪」の中村さん。「どうするのが正解か分からない」と語る=いずれも川崎市川崎区で

 緊急事態宣言を受け、県は、休業や時短営業に応じた事業所に最大三十万円の協力金を支給すると発表した。五月に宣言が延長された際には一律十万円の第二弾も決めた。
 中村さんは手探りの営業努力の一方で、国や県、市の支援策はほとんどすべて申し込んだ。運転資金に窮し、振り込みはまだか、と銀行に毎日通った知人の店主もいる。「支援金があってよかった。でも、こうした支援が今後も続くとは思えないし」
 通常営業を再開したのは宣言解除後の六月。「お客さんがだいぶ戻ってくれたと思ったのに、売り上げは前年同月より四割減っていた。それまでが、あまりにひどかったからね」
 さあこれから、と意気込んだ七月には、再び感染者が増え、県が十七日に「警戒アラート」を発動した。アラート当日の金曜夜、輪を訪れたのは二組だけ。「やばいなあ」。中村さんはつぶやいた。
 県は警戒アラートは出したが、感染防止対策を一覧表にした「感染防止対策取組書」を張っていない店などに行かないよう呼び掛けるだけで、外出自粛や休業は要請しなかった。しかし、支援策も打ち出さなかった。
 二十二日、中村さんは取組書を店に張り出した。テークアウトも強化する。周りを歩くと、明かりのつかない飲食店がけっこうあるけれども、自らを奮い立たせるように言う。
 「これ以上、何をすればいいのかな。正解は、どこにあるんでしょうか」

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