新聞の訃報記事はときに残酷かもしれない。同じひとつの死なの…

2020年7月29日 07時24分
 新聞の訃報記事はときに残酷かもしれない。同じひとつの死なのにそれぞれ記事の大きさがちがう▼限られた紙面ゆえやむを得ないと言い訳するしかないのだが、故人の功績、影響力、知名度などで訃報記事の大きさがなんとなく決まっていく。誰かの人生を勝手に採点しているようで、新聞にかかわる人間としては少々後ろめたい▼昨日の朝刊でいえば服飾デザイナーの山本寛斎さんが最も大きかった。比べたくはないが「人形の家」の歌手、弘田三枝子さんの記事は少々寂しい。戦後歌謡史上、指折りの歌唱力を誇ったミーコの扱いに納得できなかったファンもおられるか▼その人の訃報も同じ日に発表されたのだが、どういうわけか出ていなかった。歌手の鈴木常吉さん。六日に食道がんで亡くなったそうだ。六十五歳。皆が知っている人ではないかもしれない▼テレビドラマ「深夜食堂」の主題歌「思ひで」を歌った方といえば思い出す人もいるか。自分も悲しみをこらえながら、人の背中をさすり、慰めるような鈴木さんの歌声。孤独で人生とうまく折り合えない人々を描いたドラマに似合っていた▼東中野のバーのおかみがミニライブに出掛けたそうだ。ライブの最後にもう一回、「思ひで」を歌ってほしいとせがんだ。やんわり断られたそうだが、もう一回とあの歌にすがりたくなる気持ちは痛いほど分かるのである。

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