表現の自由守り半世紀 自主流通本扱う新宿の書店「模索舎」

2020年7月30日 07時14分

50周年記念イベントの打ち合わせをする「模索舎」の榎本智至さん(右)と細田伸昭さん=新宿区で

 自主流通のミニコミや団体の機関紙など一般の書店では手に入りにくい品をそろえる新宿の書店「模索舎」が10月、創業50周年を迎える。1970年代、学生運動に情熱を傾けた大学生らが設立した書店は、運営スタッフが世代交代しながら、「表現の自由」「流通の自由」を守り続けている。
 JR新宿駅から甲州街道沿いに東へ十分ほど歩くと、新宿二丁目のビルの一階に模索舎が見えてくる。ペンキのはがれかかった板張りの外壁に黒ずんだ木製の扉と看板、上に掲げられたランプが昭和の趣をそのままに残す。

昭和の趣を残す模索舎の入り口

 店内は十坪ほど。左右の棚には詩人の吉本隆明さんら著名人の書籍もあるが、多くは出版取次会社を通さない自主流通本だ。サブカルチャーやLGBT、宗教などあらゆるジャンルを網羅。ミニコミ専用の棚も設けている。奥のコーナーには新左翼、新右翼など思想を問わず、各種団体の機関紙が所狭しと並ぶ。販売依頼で持ち込まれた本は原則無審査。十一年前から店を切り盛りする榎本智至(さとし)さん(40)は「品ぞろえは多いけれど、経営はぎりぎりの状態」と笑った。
 学生時代から通う世田谷区の熊谷敏郎さん(64)は「応援のためにも、ここで買うようにしている」と本と冊子を手にした。近くに住む大学二年の谷舗(たにしき)悠人さん(20)は「昔の知識人が通っていた雰囲気が、かっこいいし、あこがれる」と話した。
 創業は七〇年十月二十八日。ベトナム反戦運動が盛んな時代、ノンセクト・ラジカルと呼ばれる党派に属さない大学生らが立ち上げた。初代代表は、ほんコミニケート社の創設者でもある五味正彦さん(一九四六〜二〇一三年)。創業メンバーの岩永正敏さん(72)=写真=は「デモ帰りの人たちで店内は活気にあふれていた」と振り返る。
 このメンバーらが出版社をつくり、友人で評論家の故・津村喬さんの著書「魂にふれる革命」を出版したことが模索舎創業のきっかけになった。自主流通本を扱う書店は少なく、販売場所を確保する必要に迫られ、店を構えた。こうした状況を背景に、表現・流通の自由を保障する理念が生まれた。店名は当時発行していた学生運動の雑誌「摸索(もさく)」から名付けられた。
 雑誌「ぴあ」やサンリオの創業者らも駆け出しのころに本を持ち込んだという。創業メンバーの小林健さん(73)=写真=は「活字が中心だった時代、情報伝達の役割を果たせた」と語る。店内に併設のスナック(現在閉鎖)では日夜、熱い議論が交わされた。自主製作レコードも販売し、その経験は岩永さんや小林さんらが南青山で経営していた有名レコード店「パイド・パイパー・ハウス」(八九年閉店)の設立につながった。
 〇〇年から七年間、模索舎で働いた綿貫真木子さん(49)は「いろんな人が店に来て化学反応を起こした。ネットでは得られないリアルな場所であることは、いつの時代も変わらない」。七〇年代後半に働いた細田伸昭さん(67)は、自主流通本を扱う各地の書店が閉店した歴史に触れながら、「五十年続いていることもすごいが、こうした書店が減っているからこそ存在意義は大きい」と力を込める。

出版物を持ち込んでいる堀真悟さん(左)と宮崎希沙さん。奥の棚の下段にミニコミが並ぶ

 編集を手掛けた「福音と世界」(新教出版社)を持ち込む堀真悟さん(31)は「独特のガチな雰囲気を続けてほしい」。売り上げ全額が販売店の収入となる書店応援のミニコミ「DONATION ZINE(ドネーション・ジン)」を発行した宮崎希沙さん(32)は「百年たってもこのままで」とエールを送る。
 「五十年の重みを感じる」という榎本さんは、OBの細田さんらとともに、十一月をめどに五十周年記念イベントを企画中。クラウドファンディングによる開催資金の調達も検討している。

店名のもとになった雑誌「摸索」(左側は表紙、右側は裏表紙)

 文と写真・服部展和
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