台風19号 川崎市民ミュージアム浸水 作品被災状態の撮影せず 市「気が回らず」

2020年7月30日 07時24分

被災前の「昭和新山」(市提供)

 昨年の台風19号で川崎市市民ミュージアム(中原区)が浸水して貴重な資料が被害を受けた問題で、修復を進めた一部の美術作品の被災状態が写真で記録に残されていないことが、市への取材で分かった。市は修復後も適切な写真を撮影しておらず、修復前後の比較ができない事態になっている。 (大平樹)
 台風19号でミュージアムの地下収蔵庫が浸水し、収蔵品二十二万九千点のほとんどが被害を受けた。市がこれまでに修復を終えたと発表した美術品は、麻生区在住の日本画家大矢紀さん(84)が寄贈した「昭和新山」と「ニコライ堂」だけ。このうち昭和新山は、修復前の状況を写真記録に残していない。
 昭和新山は、縦二・二メートル、横一・八メートルの大作。大矢さんの代表作の一つで、一九七五年に院展奨励賞を受賞した。
 市によると、泥水に長時間漬かったことで、キャンバスの繊維がふやけて一部が破れた。絵の具もふやけて泥と一体化し、泥を落とすと絵の具も一緒にはがれてしまったという。市は作品のこうした状態を撮影しなかった。担当者は「記録することに気が回らなかった」と釈明した。
 昭和新山について、市は保管を続けても展示は難しいと判断したが、大矢さんが自らの手による修復を申し出た。市は大矢さんの作品の額装を手掛けていた新潟県の業者に、百六十七万円の随意契約で修復を発注。大矢さんの手で六月二十三日に修復を終えた。市は修復後は撮影を済ませて梱包(こんぽう)したとする一方で、画像の公開は拒否。「斜めに写っているなど、公表にふさわしい写真がない」と主張した。
 市から諮問を受けてミュージアムの今後のあり方を検討する有識者会議では、七月二十八日に開いた初会合で、委員から「どのように浸水してダメージを受けたか。復旧そのものを新ミュージアムで積極的に見せる考えもある」と収蔵品修復の過程を公開する重要性を指摘する意見が出ている。
 美術品の修復に詳しい東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター(山形市)の杉山恵助研究員は「修復の前後に撮影して記録しておくのが一般的だ」と指摘。「多くの作品が被災したことで撮影にまで気が回らなかったかもしれないが、市民ミュージアムは全国の多くの美術関係者が注目している。作品の被災や修復の状況も貴重な記録であり、適切に残すべきだ」と話した。

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