<検証 新型コロナ>(6)緊迫度増す小田原市消防本部 救急搬送に内勤職員も

2020年7月30日 07時28分

5年ぶりに救急出動した永井さん(右)と原口さん

 五月十二日午後二時半ごろ、小田原市消防本部の消防指令センターから、救命講習や統計事務などを行う救急課に緊急連絡が入った。
 「新型コロナウイルス陽性患者の転院依頼が同時に複数来ています」
 小田原など二市五町を管轄する同市消防本部の救急隊は十隊。しかし、新型コロナ感染者や感染が疑われる患者の搬送後は救急車内の消毒に一時間ほどかかる上、この日は小田原市立病院で患者七人と看護師一人の感染が判明し、通常の救急隊員だけでは対応できなくなった。

小田原市消防本部=いずれも小田原市で

 緊急連絡を受け、副課長の永井友志さん(53)と係員の原口里美さん(37)は事務作業を中断し、感染を防ぐ防護服に着替え、高機能マスクやゴーグル、手袋を装着した。ともに救急救命士の資格を持つが、現場は五年ぶり。救急課に配属後は初めて。別の課の応援職員と、故障などに備えた予備の非常用救急車に乗り、同病院へ急行した。
 中等症の高齢男性を県内の医療機関へ搬送するまで車内で四十分対応した。二人は「感染防止策を講じているとはいえ、車内は密な空間で、ウイルスは見えない。慎重に酸素投与や血圧測定をした」と振り返る。
 県西地域では消防内部の態勢だけでなく、救急患者の搬送先探しも厳しさを増していた。地域の二つの中核病院が発熱救急患者らの受け入れを制限せざるを得なくなったからだ。
 市立病院と共に地域の救急医療を支える県立足柄上病院(松田町)はコロナ感染者を受け入れる重点医療機関に指定され、四月六日に新型コロナ以外の救急患者の受け入れを停止した。
 市立病院に多くの患者が運ばれるようになったが、間もなく三階東病棟で院内感染が判明した。感染拡大を防ぐため、新たな患者は検査結果が分かるまでトイレ付き個室に入院させていたが、満室になり、五月十日から発熱救急患者の受け入れを原則休止とした。十二日に七階西病棟の院内感染が分かり、緊迫度を増していく。
 このため五月は、伊勢原市や秦野市、大磯町など管外の病院への搬送件数が倍増した。搬送可能な病院を探すため救急隊が現場から五回以上各病院へ電話することは新型コロナ流行前はほとんどなかったが、四月から急増していた。
 県西地域では五月下旬になると新たな感染者がほとんど出なくなり、足柄上病院も六月十八日に新型コロナ以外の救急受け入れを再開した。県外で問題化したような搬送先が長時間決まらない事態は回避された。とはいえ、県の前田光哉健康医療局長(52)は「大きな二つの病院が救急を受けられないのは、かなり危機に近い」と、医療崩壊が迫りつつあったと認める。
 七月になり感染者が再び増え、二十八日時点で県内の入院患者は百四十五人。県は医療体制に余裕があるとするが、中核病院や高齢者施設でクラスター(感染者集団)が発生すれば状況は一気に悪化する。
 新型コロナ対策は、感染者の治療だけでない。救急態勢、がんや脳卒中など通常医療を維持し、経済への影響を小さくすることも切実な問題だ。県の中沢よう子医務監(59)は「コロナによる死亡が減っても、倒産による自殺やがんなどで、もっと多くの人が亡くなったら、対策としては失敗」と力を込める。「コロナにかからなかった人の健康もどう守るか、一緒に考えなければならない」 =おわり(この企画は、石原真樹、杉戸祐子、曽田晋太郎、石川修巳、西岡聖雄が担当しました)

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