汚染処理水の海への放出「反対」 福島県の市町村議会で意見書相次ぐ

2020年7月31日 10時30分
 東京電力福島第一原発で出た汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムなどを含む処理水の処分を巡って、海への放出に反対の立場をとる福島県内の市町村議会や漁業団体が相次いでいる。放出で引き起こされかねない社会経済的な被害への懸念は強く、特定の団体や地域に限定しない幅広い意見聴取を求める声が、内陸の自治体にも広がっている。 (渡辺聖子)

◆内陸の自治体にも広がる「反対」

 処理水の処分については、2月に政府の小委員会が「海洋か大気への放出処分が現実的」とする報告書をまとめた。3月に浪江町議会が「海洋放出に反対する決議」をして以降、7月27日までに福島県内の21市町村議会と県議会が、何かしらの意見書を可決した。
 三春町と西郷村は、海洋、大気どちらの放出処分にも反対し、陸上での保管継続を求めている。飯舘村や会津若松市などは、賛否を明確に示さないまでも、放出処分による社会的影響を懸念。会津坂下町あいづばんげまちや金山町など海から離れた6議会は、県民の意見を聴く公聴会の開催を明記している。
 福島県の北側に隣接する宮城県議会でも3月、放出処分に反対の意見書を可決。福島から遠く離れた東京都内でも小金井市議会が6月議会で、全国で公聴会を開き、陸上での保管を求める意見書を可決した。
 一方、福島第一原発が立地する大熊、双葉町議会は今のところ動きがない。福島県の内堀雅雄知事も「幅広い関係者の意見を丁寧にうかがいながら、慎重に対応方針を検討するよう国に求めていく」と、放出処分への賛否を示していない。

◆新型コロナ禍でも意見聴取 政府が実施

第4回会合に出席した(奥の前列左から)横山信一・復興庁副大臣、座長の松本洋平・経済産業省副大臣、石原宏高・環境省副大臣=6月30日、東京都港区で

 政府は、地元自治体の首長や業界団体の関係者から意見を聴く会合を、4月から7月までに5回開いた。
 第3回会合は新型コロナウイルスの感染拡大で政府の緊急事態宣言中の5月11日にあり、経団連など5団体から意見を聴いた。
 日本旅行業協会の志村ただし理事長は「技術的に妥当で、かつ社会的にも受け入れられる案であれば、それは選択されるべきだ」と話した。全国旅行業協会の有野一馬専務理事は、処理水の対応は緊急の課題で政府の小委員会の提言を「一つの前進」とし、徹底的な安全管理を前提に海への放出を「選択し得る現実的な一つの対応方法ではないか」と理解を示した。
 6月30日の第4回会合では、3団体が意見表明。全国消費者団体連絡会の浦郷由季事務局長は「海洋と大気への放出以外の処分方法の再検討が必要」と指摘。「多くの国民に処理水について知ってもらうまでは、取り扱いの方向を決めるべきではない」と話した。
 7月17日に福島市内で開かれた第5回会合では、県議会や流通団体、県民計7人が参加。海や大気への放出処分案に賛成する意見はなく、丁寧な説明や具体的な風評被害対策を求める声が占めた。
 県水産市場連合会の石本あきら会長は「風評ではなく、私たちは今も実質的な被害を受けている」と強調。「県民、国民の意見を聞いて政府として決定するべきだ」と話した。
 県民でつくる「県原子力発電所の廃炉に関する安全確保県民会議」からは4人が出席し、それぞれ個人の意見を述べた。このうち、川俣町の菅野良弘さんは「海洋放出には反対。継続保管してほしい」と訴えた。

◆再浄化でどれくらい取り除ける? 東電は「効果」示さず

 タンクで保管中の汚染処理水の約7割は、多核種除去設備(ALPS)という浄化設備で取り除けないトリチウムのほかにも、国の基準を上回る複数の放射性物質が含まれている。東電は放出前に既存設備で再浄化(2次処理)する方針だが、これまでに再浄化の試験は実施しておらず「効果」を示していない。
 「政府の方針が決まったら2次処理を行い、問題ない国のレベルまで下がることを示したい。処分の方針が決まった後にやることが大事だと思っている」。7月2日の会見で、東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明・最高責任者はこのように説明した。処理水を巡っては、東電は自ら方針を決めることをせず、国の決定を待つ受け身の姿勢を続けたままだ。
 東電は9月以降に、放射性物質の濃度が高めの処理水2000トン程度を試験的に再浄化する予定。小野氏は「リスクをなるべく早く下げるため」としている。

タンク約1000基が立ち並ぶ福島第一原発=福島県大熊町で(本社ヘリ「おおづる」から)

 2022年夏ごろにはタンクの保管容量が限界を迎えるとされ、処分までの準備期間を考慮すると、政府は今夏には方針を決定する見通しだった。
 だが、所管する経済産業省は4月から始めた意見公募の期間を3度にわたり延期(締め切りは7月31日)し、意見聴取会合も続けるという。梶山弘志経産相は6月26日の会見で「決定時期はスケジュールありきではない」と述べた。

トリチウム 放射能を帯びた水素で、酸素と結合してトリチウム水になる。普通の水と分離するのは難しく、汚染水を浄化している多核種除去設備でも取り除けない。放射線(ベータ線)は比較的弱く、人体に入っても大部分は排出される。放射能は12.3年で半減

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