<花に舞い踊る>朝顔 多様な女性に見立てて

2020年7月31日 07時44分

「第48回推薦名流舞踊大会」(2012年9月)より「朝顔売り」

 「朝顔に釣瓶(つるべ)とられてもらい水」
 早朝、水を汲(く)みに行くと、朝顔が井戸の釣瓶に巻き付いていた。それを無理に外すのもかわいそうに思い、近所から水をもらってきたというこの句は、なんとも温かい情景を彷彿(ほうふつ)とさせます。江戸時代中期に活躍した加賀千代女の俳句です。
 朝顔は古く中国から薬用として伝来し、平安時代に鑑賞用として栽培されるようになったと言われています。一般に広まったのは江戸時代からで、品種改良が進み、飛躍的に種類が増え、とりどりの色や形が楽しめるようになりました。
 さて、かつては天秤棒(てんびんぼう)で荷を担いで品物を売る商いがあり、常磐津「朝顔売り」もそうした風俗を映しています。「朝顔や朝顔」と呼び声をかけて売り歩く様にはじまり、朝顔の露を含んだ風情を、さまざまな年齢、境遇の女性に見立てて踊ります。たとえば紅色の朝顔は世慣れていない娘、薄い水色は夫を亡くした若い女性、白は尼僧といった具合です。そして、一人の女性の人生、少女期からやがて恋を知り、人の妻となり、男の浮気性と女心の切なさを紡ぎつつ、ふいに「はい、それまでよ」と初演当時(一九六三年)流行していたフレーズで砕け、有名な「三人吉三(きちさ)」の場面に移行して幕となります。
 比較的新しいこの曲にも日本古来の「見立て」の精神が受け継がれ、清らかさ、明るさ、優しさなど、多種多様な朝顔のイメージにさまざまなタイプの女性を重ね、そこに江戸情緒や時代のユーモアが織り交ぜられています。この夏は、この曲のように朝顔にいろいろな女性の姿を「見立て」てみてはいかがでしょうか。 (舞踊評論家・阿部さとみ)

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