<8月の窓>お巡りさんのひと言に救われて

2020年8月2日 06時00分

生活保護を利用しようと、相談に訪れた男性=東京都新宿区で

 「人生の幕を閉じよう」
 そう思ったとき、路上生活中の40代男性の頭に浮かんだのは、10万円の特別定額給付金と親友のことだった。
 少し前まで住んでいたアパートに届いた給付金の申請書に「結婚祝い」と書いた手紙とキャッシュカードを添え、親友宅のポストに入れた。
 「ずっと恩を返したかった」
 男性は四国で養父母に育てられた。体罰を受けたこともあり、楽しい思い出はない。20歳で親友と上京。「2人で会社を起こそう」と夢を膨らませたが、うまくいかなかった。職を転々とし、路上で暮らすようになると、心配した親友が届ける現金で命をつないだ。
 3年前から生活保護を利用し、親友とは疎遠になった。家庭を築いた親友に、もう迷惑をかけたくなかった。ここ2年間は誰とも会話をしたことがなかった。
 アパートが今年解体されることになり、新しい住まいを探したが、身元引受人がおらず、保証会社の審査も通らぬまま。つらさに耐えきれず部屋を飛び出した。親友宅に手紙を投函した後は死に方を考えていた。
 高速道路の下で寝ていた6月の夜。雨の中、やってきた警察官に「迷惑だと110番が入ったから移動して」と言われた。「俺がどんな迷惑をかけたんですか」。たまらず聞き返し、押し問答になった。話し込むうちに警察官に説得された。「生きていればやり直せる。死ぬなよ」
 男性は6月末、東京都新宿区内で開かれた困窮者向けの生活相談に向かった。「今生きている理由の8割はあの警察官で、2割は親友」。そうつぶやいた。 (中村真暁)

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