韓国アイドル BTS、米社会運動にパワー

2020年8月2日 07時38分

国連本部のイベントでスピーチする「BTS」のメンバー=2018年9月、米ニューヨークで(聯合・共同)

 秋の米大統領選に向け、米国で意外な集団の動きが注目されている。韓国の七人組男性アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」のファンだ。新型コロナウイルス禍のさなか強行されたトランプ大統領の集会に抗議して影響を与え、各地で続く黒人差別反対運動のために募金を集めて百万ドル(約一億円)以上も寄付。ニューヨーク・タイムズなど米有力メディアの見出しを飾った。 (鈴木伸幸)

◆米大統領選にも影響力

 BTSの七人は髪をカラフルに染め、化粧にピアスと中性的なビジュアル。歌だけではなく、ラップやダンスも魅力的だ。教育制度の矛盾や行きすぎた新自由主義を批判する歌詞にはメッセージ性があり、悩みを抱える若者の共感を呼ぶ。今年二月発売のアルバム「MAP OF THE SOUL: 7」は米ビルボードのチャートで一位となり、ビートルズが持つ「二年以内に四枚のアルバムが一位」という記録に五十二年ぶりに並んだ。米CNNテレビはBTSを「世界最大のボーイズバンド」と称した。
 活動は音楽にとどまらない。二〇一七年十一月には、児童虐待防止を訴える国連児童基金(ユニセフ)の親善大使に。一八年九月には国連総会で、「出自、肌の色、性別に関係なく、自分を語ろう。あなたの声が聞きたい」とスピーチして、話題を呼んだ。
 BTSの人気を支えるのは、一九九〇年代から二〇〇〇年代にかけて生まれた「Z世代」と呼ばれる若年層だ。K−POPに詳しいカリフォルニア大ロサンゼルス校の金淑栄(キムスクヨン)教授は「明るい未来を信じたこれまでの世代とは違い、将来不安を抱える世代。BTSは率直に悩みを表現し、その一方で悩む自分を肯定するように訴えている。それが受けている」と言う。
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 一三年に韓国でデビューしたBTSはSNSを通じ、ファンと直接交流することで知られる。所属事務所は弱小で、テレビなどの出演機会に恵まれなかった。そこで活用したのが、動画サイトやツイッターなど。楽曲だけでなく、舞台裏や私生活も紹介して、Z世代の関心をそそった。
 メンバーは全員がソウル以外の地方育ち。スターを多数輩出する「JYPエンターテインメント」など三大有力事務所が牛耳る韓国芸能界で奮闘する姿もファンの琴線に触れたようだ。ファンは「アーミー(軍隊)」と自称し支える。韓国で成功したBTSの海外進出を後押しした。
 ほとんどの歌詞は韓国語だが、語学に堪能なファンが英語などに訳して、動画に字幕も掲載して海外にアピール。米国ではアジア系が多いハワイ州やカリフォルニア州から人気に火が付き、一五年末には初めてビルボードの「トップ200」入りを果たした。

◆弱者救済のメッセージ、Z世代を動かす

米国など世界にも影響力を持つ「BTS(防弾少年団)」=2018年、聯合・共同

 自らもZ世代で、韓国芸能界では非主流の悲哀も経験したBTSは「弱者救済」といった社会福祉活動に熱心で、アーミーもその影響を受けている。今年五月、米中西部ミネアポリス(ミネソタ州)で黒人男性が警官による不適切な拘束で死亡した事件が起き、全米各地の黒人差別反対運動に発展、BTSは運動のために百万ドルを寄付。アーミーも寄付を呼び掛けて百万ドル以上を集め、活動資金として届けた。
 さらにコロナ禍の最中、米南部タルサ(オクラホマ州)で開かれたトランプ大統領の再選に向けた集会に対しては、アーミーの呼び掛けで多数が参加登録した後に欠席。それも一因となって、参加者は見込みを大きく下回り、会場には空席が目立った。その手法には賛否あるが、影響力に政界も着目。女性やマイノリティー(社会的少数者)の差別問題に取り組んでいる民主党のアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員らは活動を称賛している。

6月、米タルサの集会で演説するトランプ大統領。空席も目立つ=Tulsa World・AP

 また、米南部ダラス(テキサス州)の警察が黒人差別反対運動に乗じた抗議者の違法行為の映像を募集したところ、アーミーが主導してK−POP歌手の映像などを大量に送り付けて妨害。警察は募集を中止する事態になった。
 こうした活動について、「K−POP教授」の愛称で知られるインディアナ大のシーダーボー・サエジ客員准教授は「BTSの歌には『自分を信じて、行動しよう』というメッセージが根底にある。ファンはそれを受け止めて行動している。政治的活動も今、始まったわけではない」と話す。
 Z世代は物心がついた時からSNSが生活の一部となっていた最初の世代。地縁、血縁とは無縁なネット上の交流を通じて異文化に触れ、多様性を尊重する傾向が特徴的とされる。トランプ大統領の「自国中心主義」を支持する中高年の白人労働者層とは相いれない世代だ。米国でも若年層の政治離れが問題となっているが、アーミーはそれを変えるかもしれない。
 前出の金教授は「BTSは『Z世代のリアルな声』とも呼ばれる。アーミーは単なるファンではなく、BTSと共に社会を変えようと活動しているようにも思える」と話した。

◆徴兵いつ?世界が注目

 今も徴兵制がある韓国では、BTSもメンバー七人全員が二十八歳の誕生日を迎える前に、約二年間の兵役任務に就かなければならない。年長のジンは今年十二月、来年にはシュガが、二〇二二年にはジェイホープとRMがそれぞれ二十八歳となる。
 スポーツや芸術の国際大会で顕著な成績を残せば、兵役を事実上、免除される。最近では一八年アジア大会のサッカーで優勝し、イングランド・プレミアリーグのトットナムでプレーする孫興民(ソンフンミン)が免除された。BTSについても、一時は「免除を」と世論が高まったことがあるが、朴良雨(パクヤンウ)文化体育観光相は「適用は難しい」と断言している。
 徴兵逃れには国民感情が厳しい。〇二年に米国市民権を得て出国し、兵役を忌避した歌手ユ・スンジュンは入国禁止になったまま。BTSのメンバーも「兵役は義務」とコメントしているが、いつ入隊し、活動にどう影響するか。世界中のファンが注目している。

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