<記者のおすすめ>今、注目の大学生作家 若い感性、まぶしく

2020年8月3日 07時31分
 将棋の藤井聡太棋聖、サッカーの久保建英(たけふさ)選手ら、若い世代の活躍が目覚ましいですが、文芸界にも新しい風が吹いています。今回紹介するのは、現役大学生作家が書いた話題作。みずみずしい感性が詰まった小説を作者のコメントと一緒にお楽しみください。(編集委員・谷野哲郎)

◆高校生の「くらげテロ」

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 本屋に行くと、たまに面白い題名の本を見かけますよね。その点でいえばこの本も、かなり変わっています。鯨井(くじらい)あめさんの<1>『晴れ、時々くらげを呼ぶ』(講談社、一四三〇円)は今、「晴れくらげ」の略称で注目を集めています。
 主人公の越前亨(えちぜんとおる)は高校二年生。学校の図書委員を務めていますが、同じ図書委員で一年後輩の小崎優子(こさきゆこ)のことが、気になっています。好きだからではありません。彼女が毎日のように、学校の屋上で「クラゲ! 降ってこい!」と雨乞いならぬ、くらげ乞いをしているからでした。
 図鑑で調べたり、水槽で飼ったり、優子は熱心に研究を重ね、くらげを呼び続けます。驚いたことにある日、本当にくらげが降りましたが、彼女は辛(つら)そうな表情を浮かべるばかり。亨は優子の不思議な行動の理由を知り、仲間を集めてもう一度、くらげを降らそうと試みます。理不尽と戦う高校生のくらげテロ。悲しくて、悩ましくて、最後は楽しい青春小説です。
 作者の鯨井さんは一九九八年、兵庫県生まれの大学生。本作は第十四回小説現代長編新人賞の受賞作です。デビュー作とは思えない質の高さもさることながら、『プラネタリウムのふたご』『氷菓』『神様ゲーム』など、実在する小説の数々が文中に出てくるのは本好きにはたまりません。読了後、皆さんも空を見上げて「クラゲ、降れ!」と祈ることでしょう。
<鯨井あめさん>
 「どこかの水族館がクラゲの展示企画の宣伝をしていました。それを見て、『空からクラゲが降ってきたらきれいだろう』と思ったのがきっかけです。小説の感想は読者によって異なります。好き嫌いもあります。それは読むまでわかりません。だからこそ、少しでも本書に興味を持ってくださった方に読んでいただきたいです」

◆音楽巡る希望と喪失

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 注目すべき作品をもう一つ。青羽悠(あおばゆう)さん(20)の<2>『凪(なぎ)に溺れる』(PHP研究所、一七六〇円)は、一人の天才ミュージシャンと、彼の音楽に心と人生を動かされた六人の男女を描く連作短編集。この夏、切ない気持ちに浸りたい人には必読の一冊です。
 OLの遥(はるか)は偶然聴いた、無名のアーティストの曲に一瞬で心を奪われます。調べていくうちに分かったのは、霧野十太(きりのじゅった)というボーカルの名と、彼が二十七歳の若さで亡くなっていたこと。物語はそこから過去へと遡り、中学、高校、大学で歌う十太と周囲の心模様が描かれていきます。
 作者の青羽さんは二〇〇〇年、愛知県出まれ。東海高校在学中に「星に願いを、そして手を。」で小説すばる新人賞を受賞し、今作はそれ以来の長編になります。ちなみに「さよならワンダー」「白ゆき」といった各章のタイトルは実際の曲名にちなんだそう。検索してみると、小説の世界観が深まるのでは。
 際立つのは、何かを手に入れ、何かをあきらめた人にしか書けないような文章力。現在、京大に通う作者は、史上最年少の十六歳ですばる新人賞を受賞したことが影響を与えたとし、「小説を書くことが仕事に変わり、賞をとったときに感じた大きな予感が、予感のままどこかに消えてしまったような感覚。そういうものによって書いた文章」と説明してくれました。
 十太が歌うシーンは何度読んでも鳥肌が立ちます。本を読みながら手が震えたのは、初めての経験でした。新鮮な感性が味わえる若手作家の二作。大人の方も同世代の方もぜひ、お試しください。
<青羽悠さん>
 「1作目から3年がたち20歳になりました。時間はかかりましたがようやく長編を出すことができました。人は何を指針にして生きていくのか、かつて感じた昂(たかぶ)りはどこへ行ったか、大人になるとはどういうことか。どんな小説にも言えるかもしれないですが、結局、自分の答えを探す話になったような気がします」

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