「君の名は。」聖地 2年で会員数倍増 奇跡の町会 ITとふれあい両輪

2020年8月4日 07時23分

「君の名は。」に登場する須賀神社

 近所付き合いやライフスタイルが変化する中で、運営が難しくなる町会や自治会。コロナ禍で回覧板を回したり、役員会を開いたりすることまで難しくなっているのに、二年で会員を倍増させた町会が、アニメ映画「君の名は。」の聖地にあるという。「秘策」を知りたくて、訪ねてみた。
 「君の名は。」に登場する須賀神社がある新宿区・四谷地区の住宅地。須賀町(すがまち)町会の事務所は、その一角にある。昨年九月に改修したばかりの、かわいい外観。しゃれた長いすがデスクを囲む。会合では大型スクリーンを使い、ペーパーレスで資料を共有。まるでIT企業みたいだ。

みこし小屋をリフォームした町会事務所

 「役員同士の連絡や意見交換はこれですね」。会長の田邊幸三さん(70)はスマートフォンのLINEの画面を見せてくれた。
 約八百五十世帯約千四百人が暮らすこの地域で、二〇一八年三月の町会加入は約二百三十世帯。加入率は三割未満。須賀神社の祭りで、みこしの担ぎ手も足りず、外から人を呼んでいた。
 田邊さんは同年四月に会長になるや、戸別訪問を始めた。一軒に一時間ほどかけて説明すると、訪問先の八割が加入してくれた。区が派遣する専門家からノウハウを学び、会員にアンケートでニーズを聞き、事業の見直しや新しい試みを行ってきた。
 広報手段も改めた。もともと回覧板はなく、七カ所の掲示板が頼りだったが、メールで町会便りを送り始めた。防犯交通部長の原茂さん(67)は「生活を支える町会活動が知られないと、不信感を持たれ、会員も減る。やっていることを見せていきたい」と話す。

町会事務所でパソコンで作業をする田邊幸三会長(左)と外川進総務部長

 ITを活用する一方で、直接の交流も重視。防災訓練を兼ねたイベントを企画すると、子どもや高齢者の笑顔があふれた。研究者や編集者など地域に住む多様な人を講師に招く「おもしろセミナー」も昨夏に開いた。
 六月には、コロナで活動が滞る中、何かしたいと、地元スーパーの商品券を会員に配った。こうした取り組みの結果、七月中旬の加入は約五百世帯、加入率は59%にまで回復した。
 地域には一人暮らしの高齢者も多く、昨年は二人が孤独死した。外出自粛で、ますます孤立化が心配だ。総務部長の外川進さん(78)は、「人とのつながりが生命線。助けが必要な人に、手を差しのべられないか」と町会の役割を考える。
 八月中にも事務所で定期的にサロンを開き、九月から一人暮らしの高齢者らの訪問を始める。
 秘策は、とてもシンプルだった。田邊さんは言う。「大切なのは顔の見える関係。顔見知りを増やし、人と人がふれあう場をつくることです」

昨年10月に須賀神社で開かれた地域イベント=いずれも新宿区で

◆「現役世代を呼ぶ好機」

 須賀町町会に助言した地域活性化コンサルタントの水津(すいづ)陽子さんによると、コロナ禍により多くの住民組織で回覧板や会合、祭事などが休止している。それでも従来通り会費を集めている組織も少なくなく、「この状態が来年以降も続けば住民の理解が得られない可能性がある」と指摘する。
 オンライン会議や、メール連絡を進めた組織もあるが、スマホなどに慣れない高齢の役員も多い。「思うような活動ができない今こそ、令和時代に合った共助コミュニティーの在り方を問い直し、活動内容を見直すことも必要。行政もIT化などに支援を」と求める。
 リモートワークで多くの現役世代が地域にいる今は「新たな参加を呼び込むチャンスでもある」という。

◆区が専門家派遣

 新宿区全体の町会加入件数は、19年度が9万9221世帯。価値観の多様化やマンションなど共同住宅の増加により、加入率は5年前と比べて2.8ポイント減の44.7%だった。
 区では18年度から、希望があった須賀町町会に専門家によるコンサルティングを実施。19年度以降は対象を3町会に拡大した。
 文・中村真暁/写真・稲岡悟
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